「家守奇譚」梨木香歩[著]  

2012年 05月 02日

出版社/著者からの内容紹介
これは、つい百年前の物語。庭・池・電燈つき二階屋と、文明の進歩とやらに棹さしかねてる「私」と、狐狸竹の花仔竜小鬼桜鬼人魚等等、四季折々の天地自然の「気」たちとの、のびやかな交歓の記録。


 作者は、 「西の魔女が死んだ」の梨木香歩さん。作風はガラリと変わります。自然を描写するパキパキした短い文が心地良く、朗読するように読みました。

 私・綿貫征四郎は、湖で死んだ学友・高堂の実家に留守番がてら住み着き、物書きをして暮らしている。この家の庭を訪れる、この世のものではない様々な生き物達との出会いと交流が描かれます。

 こちらの現実世界に心と身体が定まらず、ややもすると向こう側に引き込まれそうになる綿貫の目を通して、自然の中の動植物が擬人化して描かれます。さるすべりの木に惚れられたり、狸に化かされたり、河童の少女を助けたりと。

 妖ししく、でもどこかのんびりと懐かしい世界に綿貫は取り囲まれています。そんな綿貫を現実の暮らしへ引き留めているのは、飼い犬のゴローとゴローに餌をやりに来てくれる隣のおかみさん、そして時折あちらの世界から、やあやあとやってくる高堂でした、、、、

 綿貫と一緒に向こう岸へふらふら迷い込む感覚が味わえます。毎晩、短い数章を読み、とっぴんぱらりのぷうと、昔話を聴くような心持ちで眠りました。


★次回は、映画「ヘルプ心がつなぐストーリー」です。

# by cuckoo2006 | 2012-05-02 21:31 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「人質の朗読会」小川洋子[著]  

2012年 04月 26日

内容(「BOOK」データベースより)
遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた。紙をめくる音、咳払い、慎み深い拍手で朗読会が始まる。祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは人質たちと見張り役の犯人、そして…しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界。
 


 これは嵌まりました!生涯で好きな本ベスト3に入ります。

 「猫を抱いて象と泳ぐ」を読んだときにも感じたのですが、これは実際に起こったことなのでは、と思わせるとこが小川さんの巧さなのでしょうね。武装ゲリラによって拘束された八人の人質が、一夜ずつ自分の話を朗読します。

 一話読み終わるごとに、何とも言えない哀しい気持ちになりました。心がふっと別の場所に連れていかれるようです。人質達が、この後どのような運命を辿ったのかは冒頭に明かされるので尚更そう感じるのですが、それを差し引いても、それぞれのお話が私のツボど真ん中。ジーンとツーンと胸に染み込みました。

 どれも本当に不思議なお話なのです。喜怒哀楽の感情が大きく揺れ動いた話でもなく、家族や仕事、旅行や趣味のことでもない。人生に起こる山や谷の話でもありません。ほんのひと時、袖振り合うように誰かと関わった体験が語られます。そして後から思うと、それが自分の人生に少なからず影響を及ぼしたようなお話です。

 淡々と語る人質達が、社会の片隅でそれぞれに自分の人生を何と真っ当に生きてきたことか。身震いするような感覚がありました。大袈裟に言えば神々しさってこういうことではないのかと。

 もし、私が朗読会にいたらどんな話をするかなあとずっと考えています。ほんの些細なことで、それでいて胸の奥底まで届き余韻を残すような話・・・・全く浮かんで来ない!。小川さんは子供の頃から様々なお話を頭の中で生み出してきたのでしょう。心がやさしい手で押し洗いされるような本でした。


★次回は、梨木香歩の「 家守奇譚」です。

# by cuckoo2006 | 2012-04-26 19:02 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「僕達急行A列車で行こう」監督森田芳光  

2012年 04月 20日

ストーリー(あらすじ)
「間宮兄弟」「武士の家計簿」の森田芳光監督が、鉄道オタク=“鉄ちゃん”の青年2人を主人公に描くオリジナルのハートウォーミングコメディ。大手企業に勤めるマイペース男子の小町と、経営危機を迎えつつある実家の鉄工所勤務の小玉は、性格も仕事も異なるが、共通の趣味である鉄道を通じて出会い、“鉄っちゃん”ぶりで周囲をあきれさせながらも、幸せの輪を広げていく。小町役の松山ケンイチと小玉役の瑛太が初共演を果たす。劇場公開前の2011年12月20日に他界した森田監督の遺作となった。(映画COMより)
キャスト
松山ケンイチ、瑛太、貫地谷しほり、村川絵梨、ピエール瀧、星野知子、伊東ゆかり、笹野高史、伊武雅刀、西岡徳馬、松坂慶子、菅原大吉、三上市朗、松平千里


 大好きな松山ケンイチ主演+私の好きな電車の話なので、大いに楽しめました。マツケンが髪型も服装も喋り方も全く時代に乗っていないのですが、独特の自分の世界を持っている鉄道オタクの会社員を演じます。

 筋立ては、どんどん先が見え、どんどんその通りになって行くのですが、全然腹が立たない。不思議です。不思議な心地良い世界が展開していきます。ああ、こういう生き方っていいなあ。こういうふうに生きればラクなんだなあ、と思わせてくれます。好きなモノが自分の中の軸となり、いつでもどこでも自然体のまま。それで、女の子にも結構モテているのです。

 ひとくくりに鉄道ファンと言っても、それぞれが自分流のこだわりを持っているのですね。“乗り鉄”や“撮り鉄”の他、座席シートや車両プレート、発車ベルなど、愛着の対象は細分化されていて楽しい。

 私も鉄道に乗るのが大好きで、長崎も四国も往復陸路で行きました。単純に列車に乗っている“時間”が好きで、譲れないことと言えば、窓際の席であること、隣の座席には自分の鞄を置いておけること、くらいです。それで、外を眺めたり本を読んだり考え事をしたり。風景と向き合うような、自分と向き合うような、私にとっては、これ以上ない贅沢な空間です。

 それにしても、考えるだけでムフフと頬が緩むものがあるって強いですよね。一人になっても老いても、手に取って撫ぜるだけでシアワセになれるモノがあると人生無敵かも知れません。森田監督の作品は、ほとんど観たことがなかったのですが、いい作品が遺作になったなあと思いました。


@TOHOシネマズ西新井


★次回は、小川洋子の「人質の朗読会」です。

# by cuckoo2006 | 2012-04-20 21:15 | 邦画 | Trackback | Comments(0)

「抱擁、あるいはライスには塩を」江國香織[著]  

2012年 04月 07日

内容(「BOOK」データベースより)
三世代、百年にわたる「風変わりな家族」の秘密とは―。東京・神谷町にある、大正期に建築された洋館に暮らす柳島家。ロシア人である祖母の存在、子供を学校にやらない教育方針、叔父や叔母まで同居する環境、さらには四人の子供たちのうち二人が父か母の違う子供という事情が、彼らを周囲から浮いた存在にしていた。

 
 続きが読みたくて読みたくて、でも読み終えるのが惜しくて、という久々の本。まず大昔に読んだ「楡家の人びと」を思い出しました。「楡家の人びと」は、著者北杜夫が自身の家族をモデルに、精神科医一家を描いています。江國さんの半世紀に渡る三世代の家族の物語も、てっきり著者の家族をモデルとした私小説と思い込みました。是非そうであってほしいなあと。でも、残念ながら検索しても“私小説”とか“江國家がモデル”という言葉は引っ掛かりませんでした。

 それでも、全くの創作とは到底思えないほど、引き込まれました。大正時代に建てられた瀟洒な洋館に暮す柳島家の1960年から2006年までの春夏秋冬を行ったり来たりしながら、一章ごとに語り手を変え進みます。柳島家は、子供を学校にやらない、テレビは見ない、叔父叔母まで同居し、四人の子供のうち、二人が父と母が違うという周囲から見ると随分変わっている家でした。

 彼等は家庭での教育により、独自の価値観と美意識を身につけています。図書室の本から想像力を育み、一流の芸術に触れ、家庭教師による専門的な教育を受け、世間の常識には全く囚われていません。

 ある意味、理想的とも言える教育を受けた子供達は、それぞれ個性的に成長し大人になっていきます。しかし、財力という後ろ盾がある上で、世間の常識とは離れた価値観による言動は、世間の常識の中で生きている者にとっては耐え難い仕打ちになる場合もあります。その場面に出くわし驚いた語り手も登場します。そして、家長である祖父の死により、一家の中に自然と保たれていたルールは徐々に薄らぎ、独立や別れにより家族の構成も変化していきます。

 風変わりな一家の物語でしたが、読み終わっての感想はごく普遍的なものでした。それは、大人になるってサビシイな、というもの。大家族の中、大人達に見守られ、その家の決まりに従い、何の心配もなく過ごしていた子供時代は、掛け替えのないものだった、のだと。温かく豊かな文化の中にいた柳島家の子供達にとっては尚更の事だったと思います。そして、その思い出は、庭の草花、お日様に風、夕餉の匂いや飼っていた犬など、様々な断片的な記憶としてそれぞれの胸に生き続けるのでしょう。

 切なさ、が心地よく刺激されました。そう言えば、この前終わったドラマ「最後から二番目の恋」の最終回で、小泉今日子も「サビシクない大人なんていないのだ」という名言を吐きましたね。タイトルを「柳島家の人びと」にした方がもっと広く読まれるのになあと思いましたが、やっぱりこの風変わりなタイトルで良いのでしょう。物語の美味しいエキスを掬い取っています。


★次回は、映画「僕達急行A列車で行こう」です。

# by cuckoo2006 | 2012-04-07 17:03 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「ヒューゴの不思議な発明」監督マーティン・スコセッシ  

2012年 03月 31日

世界各国でベストセラーとなったブライアン・セルズニックの冒険ファンタジー小説「ユゴーの不思議な発明」を、マーティン・スコセッシ監督が3Dで映画化。駅の時計台に隠れ住む孤児の少年ヒューゴの冒険を、「映画の父」として知られるジョルジュ・メリエスの映画創世記の時代とともに描き出す。1930年代のパリ。父親の残した壊れた機械人形とともに駅の時計塔に暮らす少年ヒューゴは、ある日、機械人形の修理に必要なハート型の鍵を持つ少女イザベルと出会い、人形に秘められた壮大な秘密をめぐって冒険に繰り出す。主人公ヒューゴを演じるのは「縞模様のパジャマの少年」のエイサ・バターフィールド。イザベル役に「キック・アス」「モールス」のクロエ・モレッツ。2012年・第84回アカデミー賞では作品賞含む11部門で同年最多ノミネート。撮影賞、美術賞など計5部門で受賞を果たした。(映画comより)

 映像の素晴らしさには目を奪われましたが、お伽噺のような物語はやや薄め。引き込まれませんでした。オスカーの主要部門を逃したことに納得してしまいました。

 冒頭、カメラはパリの上空から市街地にアングルを下げそのまま列車の視点で線路を這い、駅の中を走り廻ります。初っ端からアカデミー賞の“一級感”にゾクッときたのは、「スラムドッグ$ミリオネア」以来。ここは鳥肌が立ちました。

 1930年代、パリの駅舎の時計台に住みつく少年ヒューゴが主人公。舞台背景となるこの駅舎がとても良かった。カフェに花屋にパン屋におもちゃ屋、様々な店が立ち並ぶ空間に、人々は往き交い、またひと時を寛ぎます。まだ戦争の傷跡が残る時代に、駅で繰り広げられる小さなドラマは雰囲気がありました。でも、肝心の少年少女が活躍する物語の方はどうも間延びしていた。途中眠くなりました。それから、パリが舞台なのに英語を喋ってるのが引っ掛かります。やたらに“ムッシュー”を挟むので、その度に違和感を感じてしまいました。

 それでも、クライマックスでは目が覚めました。ヒューゴと物語の鍵を握る少女イザベルの冒険により、映画創成期のフィルムが掘り起こされます。活気に満ちた撮影現場と映画に魅了される観客達。とうの昔に監督をやめた夫を支え続けてきた妻は、スクリーンの中では新進女優。「今とは別人よ」と照れる笑顔が素敵でした。

 この「ヒューゴの不思議な冒険」との一騎打ちを制した「アーティスト」ももうすぐ近所のシネコンにかかります。オスカー初の仏制作による無声映画ってどんなのでしょうか。楽しみです♪


@TOHOシネマズ西新井


★次回は、江國香織の「抱擁、あるいはライスには塩を」です。

# by cuckoo2006 | 2012-03-31 17:07 | 洋画 | Trackback | Comments(0)

「四十九日のレシピ」 伊吹有喜[著]  

2012年 03月 22日

内容(「BOOK」データベースより)
熱田家の母・乙美が亡くなった。気力を失った父・良平のもとを訪れたのは、真っ黒に日焼けした金髪の女の子・井本。乙美の教え子だったという彼女は、生前の母に頼まれて、四十九日までのあいだ家事などを請け負うと言う。彼女は、乙美が作っていた、ある「レシピ」の存在を、良平に伝えにきたのだった。家族を包むあたたかな奇跡に、涙があふれる感動の物語。


 伊東四朗と和久井映見が親子役でNHKでドラマ化されましたね。初回だけ見たので結末はどうなったのかも知りたくて読んでみました。文句なく面白いお話でしたが、、、、、

 父・良平と娘の百合子は、母・乙美との突然の別れに茫然自失。乙美は、百合子が5歳の時に熱田家に後妻として入り、33年を過した。良平は、妻を怒鳴って家を出たのが最後の会話となり、百合子も乙美の愛を素直には受け入れられなかった。乙美の人生は、果たして幸せだったのだろうか、、、、そんな時、乙美の絵手紙の教え子井本が、乙美が自分の死後届けるように頼まれていた「暮らしのレシピ集」を持って現れる。

 「掃除機は重いから週1、2回で十分、あとは不織布のモップで撫ぜるだけでピッカピカ~」これは、お掃除編レシピ。良平がレシピに従ってあちこち拭いて回る場面が楽しい。お料理編、美容編、健康編、と乙美の残した可愛いイラスト入りのレシピがちょこちょこ紹介されます。残された家族がその日から暮らせるように描かれたこんなレシピ集、私も欲しくなりました。

 夫の愛人に子供ができ実家に戻って来た娘と父のやり取りは、(大好きな)伊東四朗の顔も浮かんできてジーンときます。でも、夫の若い愛人をあそこまでドラマ映えする悪役にしなくても良かったのでは。それから無神経でお節介な伯母や百合子の味方になる姑もドラマの中にいる人だった。ここまでの人は実際にはいないでしょう。だから文句なく面白いのですが、物語として面白かった、というのが正直な感想になってしまいました。

 それから、乙美さんに幸せだったかは訊かない方がよいです。「幸せだったに決まってるでしょ!」と自分の聞きたい答えを相手に言わせるだけのことだから。誰でも「そりゃあ、いい事も悪いこともあったわよ」くらいが本当のところでしょう。もちろん物語は乙美さんが幸せだったことが証明されるハッピーエンドです。


★次回は、映画「ヒューゴの不思議な発明」です。

# by cuckoo2006 | 2012-03-22 18:49 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「しあわせのパン」監督三島有紀子  

2012年 03月 13日

ストーリー(あらすじ)
原田知世と大泉洋が主演し、北海道・洞爺湖のほとりの小さな町・月浦を舞台に、宿泊設備を備えたオーベルジュ式のパンカフェを営む夫婦と、店を訪れる人々の人生を四季の移ろいとともに描いたハートウォーミングドラマ。りえと尚の水縞夫妻は東京から北海道・月浦に移住し、パンカフェ「マーニ」を開く。尚がパンを焼き、りえがそれに合ったコーヒーと料理を出すマーニには、北海道から出ることができない青年や口のきけない少女とその父親、思い出の地を再訪した老夫婦などさまざまな人々がやってくる。
キャスト:
原田知世、大泉洋、森カンナ、平岡祐太、光石研、八木優希、中村嘉葎雄、渡辺美佐子、中村靖日、池谷のぶえ、本多力、霧島れいか、大橋のぞみ、あがた森魚、余貴美子(映画comより)


 うーん、も一つでした。いい映画だしウルッとくるところもあったのですが、あまりにメルヘンチックでキレイ過ぎました。「りえさん」、「水縞くん」と呼び合う原田知世・大泉洋夫婦の生活感のある遣り取りをもっと見せてほしかった。二人はまるで絵本の中に住んでいる人のようで会話もほとんどありません。

 二人の営むカフェ「マーニ」をそれぞれの四季に訪れるお客達のエピソードが綴られ、水縞夫妻は皆を優しく見守ります。北欧を思わせる自然とインテリアに、舞台の雰囲気はたっぷりでも、このお客達のエピソードがかなり平凡のゆったりめで、よほど時間と気持に余裕がある時じゃないと乗れません。

 絵本仕立てのストーリー展開に、水縞夫妻も透明感いっぱいに描かれます。りえさんが淹れるコーヒーと水縞くんの焼くパンがほんとに美味しそうで、このへんは「かもめ食堂」のロマンチック版という感じ。私の苦手な方面です。せっかくの原田知世と大泉洋の顔合わせなのだから、もっと二人のドラマを盛り込んでほしかった。物足りなさが残りました。

 それでも有楽町の平日の夜のシネコンには、会社帰りの男性の一人客が結構いました。あれは、原田知世ファンに間違いありませんね。知世ファンにとってはこれで正解の映画だったのかな。ちょっと聞いてみたかったです。


@ユーロスペース有楽町

★次回は、伊吹有喜の 「四十九日のレシピ」です。

# by cuckoo2006 | 2012-03-13 21:38 | 邦画 | Trackback | Comments(0)

「あんじゅう-三島屋変調百物語事続 」宮部みゆき[著]  

2012年 03月 07日

内容(「BOOK」データベースより)
さあ、おはなしを続けましょう。三島屋の行儀見習い、おちかのもとにやってくるお客さまは、みんな胸の内に「不思議」をしまっているのです。ほっこり温かく、ちょっと奇妙で、ぞおっと怖い、百物語のはじまり、はじまり。


 ここで何度も同じこと言ってますが、これだけの分厚い本を難なく読ませてしまうからこそ、ベストセラー作家なのでしょう。器用に声音を変えてゆく語り口は、読む者を最後まで飽きさせず疲れさせません。宮部さん流に言うと、手足れのしわざ、というところですね。

 江戸神田の袋物屋三島屋に主人の姪のおちかがやってくる。おちかは身に起こった不幸な事情を抱えていた。叔父の家で身体を動かし働いていると、おちかは一時苦しみを忘れることができた。そんな折、ひょんなことからおちかは、胸の内に永い年月封じ込めてきた事柄をひそかに語りたい人の聞き役を努めることになる。それは、哀しく怖ろしく不思議な話ばかりだった・・・・

 日本昔話に出て来そうな女の子の神様の話「逃げ水」、死んだ娘そっくりに作った人形に針が立つ「藪から千本」、紫陽花屋敷と呼ばれる空き家に棲みつく「暗獣」、村に密かに伝わる風習が悲劇を呼ぶ「吼える仏」。小沢昭一さんや永六輔さんが話すと、どんな話でも面白くなりますが、この本もそんな感じ。話の面白さ、というより、話の持って行き方の面白さ、を感じました。

 摩訶不思議な話を聞き終わった後に、三島屋の叔父叔母によって、こうこうこういう訳だったんじゃないのかねえ、という解説が入るので、うまく胃の腑に落ちます。結局のところ、“この世のものではないもの”とは、人の心や“気”によって作り出されたもの。けっして露わにしない妬みや恨み、後ろめたさなどが膨らみ、その“気”が怨霊を生み出す。幽霊の姿も声も人の心が見て聞いている、というのが話の落ち着きどころとなります。

 やっぱり一番怖いのは人の心で、その心をひょいと裏返して見せる面白さがありました。そういう意味で私が一番印象に残ったのは、善良な人々の本心をあぶり出した「藪から千本」です。江戸の商家の暮らしや町の様子、人の物言いも大いに楽しめました。


★次回は、映画「しあわせのパン」です。

# by cuckoo2006 | 2012-03-07 17:55 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「人生はビギナーズ」監督マイク・ミルズ  

2012年 02月 28日

ユアン・マクレガー主演で人生を前向きに生きようと変化してく人々の姿を繊細に描いた人間ドラマ。38歳独身で奥手なオリバーは、母に先立たれ5年がたったある日、ガンの宣告を受けた父からゲイであることをカミングアウトされる。衝撃を受けたオリバーは事実をなかなか受け止められず臆病になってしまい、運命的な出会いを果たした女性アナとの関係も自ら終わらせてしまう。しかし、真実を告白した父は残された人生を謳歌し、その姿を見たオリバーは自分の気持ちに正直に生きることを学んでいく。監督は「サムサッカー」のマイク・ミルズ。父親役にクリストファー・プラマー、アナ役にメラニー・ロラン。
キャスト:ユアン・マクレガー、クリストファー・プラマー、メラニー・ロラン、ゴラン・ビシュニック(映画.comより)

 好みの映画でした♪

 オリバーは、38歳・イラストレーター・独身。恋にも人と深くつき合うことにも不器用で臆病。なぜかと言うと、子供心にも両親がしっくりいっていないことを感じ取ってきたから。幸せそうでない母親が気掛りだったから。自分も失敗するのではと思ってしまうから。そんなオリバーの相棒は、父の愛犬だったジャックラッセルテリアのアーサー。

 母の死後、オリバーは、父からゲイであることを知らされます。子供の頃から両親に抱いていた疑問が一気に解けたことでしょう。物語は、少年時代のオリバーと母、母が亡くなった後の父との暮らし、そして父の死後の現在と、3つの時間がまるで繋がっているように自然にシーンを変えながら進みます。

 私はオリバーの母に共感してしまいました。そりゃあ、どんなにか不幸な結婚生活だったと思います。それでもこの母親、知性とユーモアセンスがあるのですね。時々ぶっ飛んだ行動にも出るのですが(当然だ)息子を自分の不幸に巻き込まない覚悟が清々しい。ゲイであることを知りながら夫に求婚し、夫も精一杯に応えた結婚生活、互いを尊重し合ったとはいえ、やはり不毛だったことでしょう。

 妻からは、「パパは感情がない人だから」と言われた父親でしたが、ゲイをカミングアウトしてからは一転。仲間の輪に飛び込み、心を広げ恋人達と愛し合う。勇気がいったろうし傷つくこともあったでしょう。それでも掛け値なしの今の自分に臆することなく、仲間達と残された人生を謳歌する姿に打たれました。この父親も立派でした。

 そして、もっと立派だったのは、オリバー。父の交友関係を受け入れ誠心誠意サポートする。最後まで父を父の恋人とともに見守る。これはなかなかできないことです。いい人間なんですね。晩年の父が身をもって息子に何かを伝えたのでしょう。やがて、オリバーも似た者同士のようなアナと遂に心を添わせます。二人の間には、いつもぴったりとアーサーがいるから安心です♪

 幾つになっても新しい扉を叩く時は、みんなビギナーズ、大丈夫うまくいくよ、と思わせてくれた映画でした。

















@TOHOシネマズシャンテ


★次回は、宮部みゆきの「あんじゅう」です。

# by cuckoo2006 | 2012-02-28 15:45 | 洋画 | Trackback | Comments(0)

「サラの鍵」監督ジル・パケ=ブレネール  

2012年 02月 22日

タチアナ・ド・ロネの同名ベストセラー小説を、クリスティン・スコット・トーマス主演で映画化。1942年のフランス、パリ。ユダヤ人の迫害が過激化するある日、幼い弟を納戸に隠したサラは、納戸の鍵を手にしたまま収容所へ送られてしまう。そして現代。アメリカ人ジャーナリストのジュリアは、ユダヤ人迫害事件を取材するうちに、あるユダヤ人家族の悲劇を知り……。第23回東京国際映画祭で監督賞と観客賞を受賞。
キャスト
クリスティン・スコット・トーマス、メリュシーヌ・マイヤンス、ニエル・アレストラップ、エイダン・クイン(映画comより)


 映画を観て心が揺さぶられた、と軽く言えないような作品。恐らく今年はこれを上回るものには出会えないでしょう。

 冒頭、シラク大統領が、過去の事実、フランス警察によってパリ市民であったユダヤ人をアウシュヴィッツ収容所に強制連行したことを公式に認める映像が流れます。ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害は知っていても、フランス政府によって同様のことが行われたことはフランス人でさえ長く知らされていなかった史実でした。

 1942年、7月の朝、サラが両親と弟と住むアパートに警察が踏み込み強制連行されます。サラはとっさに幼い弟を納戸に隠し鍵を掛ける。すぐに帰って来ると約束して。一家はパリ市内の冬季競輪場に連れて行かれます。そこには、許可された3日分の衣類のみを持った大勢のユダヤ人家族が集められていました。

 この競輪場での描写が、私は何より恐ろしかった。食べ物も水もトイレも与えられず、不安と恐怖の中、飢えと暑さに苛まれる。その朝まで普段通りの生活をしていた人々が、一切の自由を奪われ刻一刻と弱っていく様子に、自分もそこにいるような息苦しさを感じました。そして、サラの一家は幼い弟を残してきているのです、、、数日後、8000人あまりのユダヤ人家族は、選別され引き離されナチスの収容所へ連行されていきます。

 “サラのその後”がアメリカ人ジャーナリスト・ジュリアによって辿られます。彼女は、改装して住もうとしている夫の実家であるアパートが、サラが弟を納戸に隠したアパートであることを知ります。どのような経緯で、夫の祖父はサラの家からこのアパートを手に入れたのだろうか、、、そんな時ジュリアは妊娠していることに気づくのですが、、、、

 物語は、弟を救う過酷な旅を続けるサラと、その足跡を尋ねたジュリアが交互に描かれます。サラの辿った人生は、誰であってもそうだっただろう、と思うことしかできませんでした。ストーリーはフィクションですが、これよりもっと酷いことが実際にあったことは容易に想像されました。物語の最後に、サラの魂が、ジュリアの生き方に影響を与えることにより救いがもたらされています。

 戦争というのはこういうことなのだ、と理屈抜きに伝わるものがあります。テレビ放映するとか学校から鑑賞に行くなどして一人でも多くの方に観ていただきたい作品です。


@銀座テアトルシネマ


★次回は、映画「人生はビギナーズ」です。

# by cuckoo2006 | 2012-02-22 00:11 | 洋画 | Trackback | Comments(2)

「死の教訓」ジェフリー・ディーバー[著]  

2012年 02月 10日

半月の夜、暴行を受けた女子大生の死体が池の畔で発見された。現場に残された書き置きは捜査主任ビル・コードを名指しで次の犯行を示唆しており、血で描かれた半月が町の建物六ヵ所に一夜にして出現した。“ムーン・キラー”の凶行を恐れ、町はパニックに陥る。ノンストップ・サスペンスの王者が放つ衝撃作。(文庫本裏表紙より)
 
 イマイチでした。これはお薦めできません。

 ジェフリー・ディーバーと言えば、ジェットコースター・サスペンス、どんでん返しに次ぐどんでん返しのノンストップ感覚を味わえるのが魅力。私はリンカーン・ライム・シリーズの「ボーン・コレクター」を読みましたが、これは面白かった。事故の後遺症のためベッドの上から女性部下に指示を与え捜査に当たるライム。積み重ねた経験と緻密な分析により凶悪知能犯を追い詰めていきます。そのライムの深夜の病室に近づく犯人の足音・・・・ハラハラドキドキの臨場感いっぱいでした。

 海外ミステリーは登場人物がかなり多いこともあり、前半はなかなか読み難い。でもその甲斐あって最後の最後まで犯人の予想はまるでつきません。ほんの些細な手懸りから犯人のシルエットがぼんやり浮かび上がったと思いきや、またそこから読者の裏の裏をかく。そして遂に明かされる驚愕の真相。この最後の数十ページを捲っていく快感ったらありません。

 「死の教訓」は、キレがありませんでした。目次のあとの“登場人物一覧”を何度も確認に戻った人間関係はゴタつき、唐突に現れた犯人の輪郭ははっきりせず、物語のキーとなる“現場”の状況はもうひとつくっきり浮かんで来ない。父と息子の確執というトマス・クックばりのテーマも中途半端でした。まあ、図書館予約本の「マザーズ」に割り込みされたのもこの本の不運だったのですが。海外ミステリー読了後のいつもの爽快感に欠けました。

 ジェフリー・ディーバーがいったいどうしたことか、と顰め面のまま訳者解説を読むと、謎が解けました。本書はブレイクする前のディーバー作品、だったのです。ここから一皮も二皮も剥けていったのですねえ。超一流のディーバー氏のモッサリしてる頃に出会え、なんだか親近感が湧いてきました。


★次回は、映画「サラの鍵」です。

# by cuckoo2006 | 2012-02-10 12:34 | 海外ミステリー | Trackback | Comments(3)

「風にそよぐ草」 監督アラン・レネ  

2012年 01月 27日

「アメリカの伯父さん」「恋するシャンソン」などで知られるフランスの巨匠アラン・レネが描く、初老の男女の運命的な恋の物語。歯科医のマルグリットはある日、引ったくりにあいバッグを持ち去られてしまう。駐車場の片隅に捨てられたバッグを拾った初老の紳士ジョルジュは、その中にあったマルグリットの小型飛行機操縦免許の写真を見てなにかを感じる。そうして知り合った2人はすれ違いを繰り返しながらも恋に落ちていくが、その関係は周囲を巻き込んで思わぬ方向へ転がり始める。主演は近年のレネ作品の常連、アンドレ・デュソリエとサビーヌ・アゼマ。(映画comより)

ナンジャコリャ!でした。

 出だしは上々だったのです。雰囲気のいい映像に音楽にナレーションに、フランス映画って素敵だなあ~岩波映画はやっぱりいいなあ~とホクホクしながらシートに身を沈めていたのですが、、、、

 話の筋はこうです。ある日、初老の男ジョルジュは駐車場で赤い皮の財布を拾う。それは、引ったくられたバッグの中にあった歯科医マグリットのものだった。財布の中にあった小型操縦免許の写真を見て、ジョルジュは彼女に強いシンパシーを感じる。マグリットに会うことを断られたジョルジュは、彼女の家をつきとめ、ポストに手紙を入れたり、毎晩留守電にメッセージを残したり、果ては彼女の車をパンクさせたりする。

 ジョルジュの心の声も妄想も全部ナレーターによって語られます。彼の奇妙な発言や周囲の人の彼への接し方から、私はてっきり、ジョルジュは(恐らく銃による自殺未遂から)脳障害を起こしている状態、と思いました。

 やがて、彼と会うことを拒んでいたマグリットは自分からジョルジュに会いに行きます。ここで形勢はガラリと変わる。今度は、マグリットの様子がおかしくなっていきます。すわ、マグリットも脳に損傷か!

 いやあ、これは「恋」だったのですねえ。恋をしている状態の男女を、脳障害と思い込んでしまった自分に愕然とします。失業中の夫が少しでも元気になるならと、妻はジョルジュがマグリットに会うことを後押しさえするし、有能な歯科医として患者の尊敬を得ているマグリットの毎日も単調なもの。二人の抱える寂しさは良く伝わってきました。

 二人の切ない想いがようやく通じ合った時、ジョルジュのズボンのチャックが上がらなくなったり、大人の恋を89歳の監督は、滑稽に辛辣にシュールに描いてみせます。ラスト、コントロールを失った小型機にジョルジュの妻も同乗していたのは、熟年の恋は否応無しに家族を巻き込むという暗示なのでしょうか?

 “二度目のFin”の前の唐突な母娘の会話も全くの意味不明。「ママ、猫になれば、猫のご飯が食べられるの?」だったっけな。私には理解不能だったので、この映画は「不条理劇」の引き出しに入れて置くことにします。それにしても、熟年が恋に走れば端からは脳の異変に見える、ということを今回恐ろしく認識しました。原題は、「狂った草」、こちらの方がピタリと来ます。


@岩波ホール


★次回は、ジェフリー・ディーバーの「死の教訓」です。

# by cuckoo2006 | 2012-01-27 14:31 | 洋画 | Trackback | Comments(0)

「マザーズ」 金原ひとみ[著]  

2012年 01月 21日

内容(「BOOK」データベースより)
同じ保育園に子どもを預ける三人の若い母親たち―。家を出た夫と週末婚をつづけ、クスリに手を出しながらあやういバランスを保っている“作家のユカ”。密室育児に疲れ果て、乳児を虐待するようになる“主婦の涼子”。夫に心を残しながら、恋人の子を妊娠する“モデルの五月”。現代の母親が抱える孤独と焦燥、母であることの幸福を、作家がそのすべてを注いで描きだす、最高傑作長篇。


 ここ10年での衝撃度No.1でした。同じ保育園に子供を預ける三人の若い母親たちが、一人称で一章ずつ今の自分を語っていきます。内容紹介を見ると、わりとありがちな閉塞感の中にある母親達の話なのかなと思いましたが、これがもう深かった。生身の心へザクザク斬り込む文章に圧倒されました。

 出だしの先鋭的な感覚と表現に、若い作家とはやっぱり合わないな、とまずは思いました。作家のユカ、主婦の涼子、モデルの五月という三人三様のキャラクターが二廻りしたくらいから、話はぐんぐん濃くなっていきます。三人の女性とそれぞれの夫や母との組み合わせに、様々な場面の様々な感情が掬い取られていきます。そして、不倫、妊娠、虐待、薬物というぎりぎりの状況に追い詰められる中、彼女達の思いは命の叫びのように噴き出します。息苦しいほどの生々しさでした。

 ユカ、涼子、五月それぞれの中に自分を見つけたし、彼女達の夫の中に私の夫もいました。思わずページを捲る手が固まってしまったところも幾つか。一つ上げると、ユカの涼子への言葉、『過去に傷つけられたことを恨んだって、それを拒否しなかったのは自分自身。拒否しても殴られることも殺されることもなかったのだから、拒否しないことを選んだ自分の責任から逃げて、人のせいにしていては前に進むことはできない。』いやあ全くその通り。本の中から人差し指を突きつけられた気がしました。

 子供の誕生によって、あれほどぶつかり合いすれ違い遠い存在になっていった夫達。妻の心が壊れていくことに気づくことができなかった三人の夫達が、遂には破綻した妻を三人とも(広い意味で)見捨てなかったことには救われた思いがしました。

 それにしても20代のうちに苦しみの中からこれだけ自己を確立できれば三人の女性達はこれからしっかりと自分の人生を歩んでいけるでしょう。ある意味羨ましさを感じます。この本の中にある女性達の思いは、嘘ごとではなく確かにあるもの。金原ひとみさんの洞察力の深さに感服しました。


★次回は、映画「風にそよぐ草」です。

# by cuckoo2006 | 2012-01-21 22:16 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(2)

2011マイベスト5シネマ  

2012年 01月 05日

あけましておめでとうございます。
元日の地震には驚きましたが、皆さま良いお正月をお過ごしのことと思います。
さて、観た映画の数も記憶力も減るばかりですが、今年も昨年のマイベスト5シネマ発表といきましょう。
判断基準は、自分のツボに入ったかどうか、のみであります。

第1位 ステキな金縛り

第2位 ソーシャル・ネットワーク

第3位 クレアモントホテル

第4位 イリュージョニスト

第5位 探偵はBARにいる

思い出せない映画は思い出せないだけのモノ、ということにして、心に留まるナニカを残したこの5作品に決定です。
今年も気楽に気ままにブログを更新していけたらと思っています。
どうぞよろしくお願いいたします♪

健康第一の良いお年でありますようにー

     お大師様から冬日が伸びて商売敵の草だんご

# by cuckoo2006 | 2012-01-05 00:33 | Trackback | Comments(1)

「ニューイヤーズ・イブ」監督ゲイリー・マーシャル  

2011年 12月 31日

ストーリー
「プリティ・ウーマン」のゲイリー・マーシャル監督が、「バレンタインデー」(2010)に続いて描くオールスターキャストの恋愛群像劇。大みそかのニューヨークを舞台に、死期が迫った老人と看護師の交流、1年前に出会った女性が忘れられない男、偶然再会した元カップルなど8組の男女の姿が描かれる。「バレンタインデー」のアシュトン・カッチャー、ジェシカ・ビールをはじめ、ハル・ベリー、ジョン・ボン・ジョビ、アビゲイル・ブレスリン、ロバート・デ・ニーロらが出演。(映画comより)

 
 大晦日のニューヨークを舞台に、それぞれの場所で繰り広げられる愛のドラマ。何だか同じような映画を続けて観てしまいましたが、味付けはまるで違います。こちらは完全なハリウッドカラー。オシャレで煌びやかで豪華キャストによる飛び切り贅沢なこしらえです。

 黒いゴミ袋が積んである街角や横断歩道を足早に渡るニューヨーカーなど眺めてるだけで楽しいし、ニューイヤーへの“ボールドロップ”のカウントダウンイベントの様子も初めて間近に眺めました。これがニューヨーク版・除夜の鐘に初詣というわけなんですね。

 何組かの男女が交錯してドラマは展開します。去年の大晦日に一年後の再会を約束した男性の相手は、ハテどちらの女性か?の仕掛けなど巧く出来てます。センスの良いと会話とムードと音楽で、充分楽しめてしまうのですが、お話はどれもかなりのステレオタイプ。残念ながら印象に残るものはほとんどありません。

 一番ほのぼのしたエピソードは、産科病院での話。新年初に産まれるベビーの賞金を目当てに二組の夫婦が、火花を散らします。逆立ちしたりアンチョビを食べたり激戦の末、やがて両家に赤ちゃんが誕生する。男児を得た初産の夫婦は、相手方が三人目の女の子で、どうもウチより賞金が必要そうと思ったのか、出産時間を1分譲ってしまう。無事に産まれてしまえばもう賞金などどうでもよくなってしまったダンナ達が実にいい表情でした。

 「クリスマスのその夜に」と本作とどちらか一つ見るとすれば、やっぱり断然こちらでしょう。最後にロバート・デ・ニーロも悪ノリしてるNG集までついて文句なく楽しめます。でも観終わって一週間経ち、心に残っているのは、華やかなニューヨークより、コソボ出身の夫婦が見たノルウェーのオーロラに、軍配ですね。

@TOHOシネマズ西新井

★次回は、2011マイベスト5シネマです♪

        ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 早いもので、永年住み慣れた練馬からここ西新井に来て4度目のお正月になります。嬉しいことに私にも少しずつお知り合いが増え、先日地元の友人達と忘年会ランチをしました。いつものように楽しいお喋りは途切れることがありませんが、例の「これから30年間に30%の確率で起こる巨大地震」の話題になり、一同暗くなりました。すると誰かが「でもこれから30年間に私達が病気になって死ぬ確率って100%よね」と言い出し大笑い。ホント、地震より他の心配しろ、ですよね。それでもそれでも、来年が平穏無事な年であることを祈らずにはおれません。どうぞ皆様にも新しい年が健やかで良い一年でありますように。今年も「気ままな読書ノート」をお読みくださりありがとうございました。

      地球と日本と我が家の無事を拝むベランダ初日の出

# by cuckoo2006 | 2011-12-31 13:46 | 洋画 | Trackback | Comments(0)

「クリスマスのその夜に」監督ベント・ハーメル  

2011年 12月 23日

ストーリー
「ホルテンさんのはじめての冒険」「キッチン・ストーリー」のベント・ハーメル監督が、クリスマスの夜に大切な人との時間を求めて懸命に生きる人々の複数のエピソードを交錯させて描く群像劇。イブを迎えたノルウェーの小さな町で、結婚に破たんした男がサンタに変装し、かつての我が家にもぐりこむ。男の友人の医師は2度と故郷に戻れないというコソボ出身のカップルの赤ちゃんを取り上げ、ある少年はご馳走を囲む家族よりもクリスマスを祝わないイスラム教徒の女の子と時をともにする。(映画.comより)

 この映画は観終わったあと、スクリーンの夢の世界から現実へ引き戻される感覚を味わわずに済みます。なぜなら、スクリーンの中も薄らサビシイ日常そのものだから。イブの夜、ノルウェーの小さな町に住む人々が織り成す同時進行のドラマです。

 雪に閉ざされた窓の中、大人も子供もいつもとさして変わらぬ様子でクリスマスの日を過ごしています。おしゃれな雰囲気も会話もなく、ぼそぼそと時計の針は進んでゆく。期待するほど楽しいことも起りそうにないクリスマスに、身に覚えがあるような特別な日の居心地悪さも伝わってきます。

 地味めのお話が並ぶ中、私の好きだったエピソードは二つ。一つ目は、妻から離婚された男が、妻と子供のいる元の家にサンタになって入り込む話。この父親、妻と新恋人への嫉妬から妄想を広げ、かなり危険な状態でした。どうしてもイブに子供達に会いたい彼は、荒っぽい手口で、サンタの姿になって妻の新恋人と入れ替わる。妻も子供達もサンタがパパであることに全く気づきません。プレゼントを渡した彼は、子供達を抱きしめるだけで、おとなしく家を後にします。あんなにアブナイ奴だったのに。マスクの下の目を涙でふくらませていた彼は、もう二度とここへは戻れないことを悟ったのかも知れません。

 もう一つのエピソードは、パーティのご馳走が並ぶ我が家へ帰りたくない少年が、イスラム教徒の少女と夜空を眺めて過ごす話。少年が家に戻りたくない理由は語られませんが、上級生の少女は彼の気持ちを察します。少女のまなざしや微笑み、そして彼女の父親の声音は何とも温かいものでした。少年は、少女のアパートの屋上に今夜の自分の居場所を見つけたのでしょう。

 “グ・ユール”というのがノルウェー語で、Merry Christmas!なのですね。短く声を掛け合う、“グ・ユール”の響きが心暖か。暗く静かな北欧の冬の澄み切った星やオーロラも心に残ります。映画館の外にも薄らサムイ風が吹き抜けていましたが、ちょっぴりやさしい気持ちで駅に向かいました。


@ヒューマントラストシネマ有楽町

# by cuckoo2006 | 2011-12-23 16:31 | 洋画 | Trackback | Comments(0)

「空飛ぶタイヤ」上・下 池井戸潤[著]  

2011年 12月 11日

走行中のトレーラーのタイヤが外れて歩行者の母子を直撃した。ホープ自動車が出した「運送会社の整備不良」の結論に納得できない運送会社社長の赤松徳郎。真相を追及する赤松の前を塞ぐ大企業の論理。家族も周囲から孤立し、会社の経営も危機的状況下、絶望しかけた赤松に記者・榎本が驚愕の事実をもたらす。(文庫本裏表紙より)

 モチーフとなった事件のことを鮮明に覚えています。脱輪したタイヤが直撃し死亡した被害者は幼な子二人を連れた母親でした。私のような中高年ならいざ知らず、20代の人が逃げられなかったのは、小さな子二人を庇って動きが取れなかったのだろうなあと、記事を読みながらタイヤがスローモーションで迫って来る映像が浮かんできました。痛まし過ぎる事故でした。

 しかし、その事故は、不幸にして起きた事故から、大企業による組織ぐるみの刑事事件へと真相が明らかになります。まるでノンフィクションを読んでいるようにのめり込みました。事故原因は、あくまでトラックの整備不良で処理しようとするホープ自動車に、整備点検内容に自信を持つ赤松運送社長は納得がいかない。事故原因を独自に突き止めようと事故車両の部品の返却を求めるのですが、巨大企業の扉は開かれません。そして、取引銀行のホープ銀行も非情な手段で赤松運送を追い詰めてきます。

 “ホープにあらざれば人にあらず”とでもいう財閥系企業のエリート意識は慢心を生み、会社の利益、部署の保身が第一、という論理がまかり通っています。そこに人の命の重さはない。読んでるうちにカーッと頭に血が上ってきます。と同時に、巨大グループ企業内のそれぞれの立場の思惑や力関係の生々しい描写に、まるでそこにいるように引き込まれました。おとうさんたちは大変だ・・・

 大企業は人の気持が解らないエゴイスト、中小企業は人情と情熱がある、と多分に図式的なのですが、その中に心が揺れもがいている人々がいて感情移入できます。事件真相解明の糸口となったのは、揃って職人気質のプライドから、過去の事故の核心となる証拠を保存していた人達でした。最後の著者紹介を眺めていたら三菱銀行勤務の経歴が飛び込んできました。臨場感があるはずですね。


★次回は、映画「クリスマスのその夜に」です。

# by cuckoo2006 | 2011-12-11 21:31 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「ステキな金縛り」 監督三谷幸喜  

2011年 11月 27日

ストーリー
「ザ・マジックアワー」の三谷幸喜監督が同作以来3年ぶりにメガホンをとり、法廷サスペンスやファンタジーの要素も盛り込んで送り出すオリジナル長編コメディ。三流弁護士のエミが、担当する殺人事件の弁護のため、被告人のアリバイを唯一証明できる落ち武者の幽霊・更科六兵衛を法廷に引っ張り出そうと奮闘する姿を描く。主演は深津絵里、西田敏行。共演に竹内結子、浅野忠信、篠原涼子、佐藤浩市ら豪華キャストが集う。
(映画.comより)


 久々に、映画を観終わってシアワセな気持ちになりました。今年の暫定マイベスト1です。三谷作品と言えば、奇想天外な世界。これは、ハマると幸せになり、ハマれないと腹が立ちます。私の場合は、前々作の 「THE有頂天ホテル」が前者で、前作の「ザ・マジックアワー」 が後者でした。今回は、やりましたねえ。作品全体が見事に嵌りました。

 一番ハマってたのは、何と言っても落ち武者役の西田敏行です。被告人のアリバイを証明する唯一の証人として、落ち武者の幽霊は法廷へやって来ます。エリート検事(中井貴一)は証言の信憑性を否定するため、証人を信用出来ない人物と決めつける。彼は密かに敵と通じた罪で切腹させられた裏切り者であると。半泣きになった落ち武者は「グ、グヤジイ」と弁護士エミ(深津絵里)に縋りつきます。何しろその無念のために成仏できないのですから。もうこのシーンの西田敏行の可愛らしさったらありませんでした。

 法廷でのエミのボス(阿部寛)のタップダンス、死後の世界の公安局員(小日向文世)こだわりの映画「スミス都へ行く」など、オシャレな小ネタもたっぷり。チョイ役で次々に登場する豪華キャストも皆出ることを楽しんでる雰囲気が伝わってきます。中井貴一が、死んだ愛犬のラブラドールと再会し、道路に飛び出したことを優しく叱るシーンが私は一番好きでした。

 そのほか、心地よーく役に嵌っていたエミの恋人役のTKO木下隆行、エミの父親役の草彅剛、郷土史家の浅野忠信が、胸をホカホカさせてくれました。特に、TKO木下のつぶらな瞳、良かったなあ。

 エンドロールでは、スナップ写真が捲られ、エミ達のこれからの姿が映し出されます。ここで幸せ感は頂点に達し、にこにこ顔のまま映画館を出て来ました。


@TOHOシネマズ西新井


★次回は、池井戸潤の「空飛ぶタイヤ」です。

# by cuckoo2006 | 2011-11-27 11:39 | 邦画 | Trackback | Comments(0)

「そろそろ旅に」 松井今朝子[著]  

2011年 11月 21日

内容(「BOOK」データベースより)
のちに十返舎一九の名で「東海道中膝栗毛」を著し、一大旋風を巻き起こす重田与七郎の若き日々。故郷駿府を出て大坂、江戸へ―。行く手の定まらない男が、行きつ戻りつ、旅の途中で見つけた己れの進む道とは。直木賞作家、渾身の長編小説。


  時代小説はどうも苦手なのですが、この本は私と一才違いの女性作家によるもの。そう思うとグンととっつき良く読み易かった。ご存じ「東海道中膝栗毛」を書いた十返舎一九の若き日々が描かれます。

 万事につけ鷹揚で度胸が据わり、人当たり良く優しい。お気楽でだらしないのだが、不思議と周囲の人の心にするりと入ってしまい、女達からは放って置かれない。だいたいこんな一九の人物像なのですが、作者は何を頼りに一九の人となりを仕立てたのでしょうか。

 エピローグの中の一文、『だれのことも何かと貶した馬琴が、どうしたわけか一九のことだけはあまり悪く書かなかった』を読んでナルホドと思いました。つまり、同時代に活躍した作家の中で一番長生きし、仲間を評する書物を残した宝井馬琴(南総里見八犬伝・著)が、 “唯一、一九のことだけ悪く書かなかった”、この一つの事実から、十返舎一九という歴史上の人物に血を通わせ表情を与えた、というわけですよね。史実も調べた上のことでしょうが、作家の想像力って凄いものです。

 当の馬琴はというと、悪女の後家に婿入りした身の不運を嘆きながらも子沢山の子煩悩。一九に文献について質問などされると喜び勇んで博識を披露します。また生意気盛りの式亭三馬(浮世床・著)も登場し、一九と連れ立って雑俳の会に出掛けたりする。皆それぞれが後世に残る代表作を発表する前の、焦ったり悔しがったり喜んだりする姿が生き生きと描かれます。

 私が一番心を引かれたのは、一九の抱える心の闇でした。目の前の人と話している時でさえ心がふと旅に出てしまう、そんな一九の胸の奥底にあるもの・・・それは、武士出身である一九が幼い頃から一緒にいる家来の太吉の存在が大きく関わっていました。最後に謎が明かされる太吉とのやり取りが、一九の心のあり様、生き様をリアルに肉付けしています。

 二度の婿入りを離縁した一九ですが、夫婦がもう元に戻れないと察した時に、穏やかさと親しさを再び感じ合う描写など沁みました。二人の妻ともが一九が旅立つことを許してしまいます。心に深い闇を抱えた一九が、抱腹絶倒の弥二喜多道中をものにし、馬鹿馬鹿しさなら天下一品、と言われたのも面白く切ないものですね。

 ところで、私は毎日、松井今朝子さんのブログ「今朝子の晩ごはん」 を読んでます。震災の時には情報と意見を発信しつづけ、今は首相を“ブースカ”と呼びやっつけてくれてます。そんなわけで、なんだか知ってる人が書いた小説を読んでるような感覚を味わいました。(「快獣ブースカ」とは我々が子供の時の円谷プロによる人気アニメ)

 最後に十返舎一九辞世の句をご紹介、

この世をば どりゃお暇(いとま)に 線香の 煙とともに 灰(はい)左様なら


★次回は、映画「ステキな金縛り」です。

# by cuckoo2006 | 2011-11-21 20:21 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「死神の精度」 伊坂幸太郎[著]  

2011年 11月 04日

①CDショップに入りびたり
②苗字が町や市の名前であり
③受け答えが微妙にずれていて
④素手で他人に触ろうとしない
──そんな人物が身近に現れたら、死神かもしれません。1週間の調査ののち、対象者の死に可否の判断をくだし、翌8日目に死は実行される。クールでどこか奇妙な死神・千葉が出会う6つの人生。
(文庫本裏表紙より)


 
 一話ずつのオムニバス。最初がずいぶん軽めのお話だったので、あ、伊坂さん手を抜いてるな、と思ってしまった。が、その後すぐに、いつものようにキレと余韻のある伊坂ワールドが展開していきます。

 死神・千葉の仕事は、担当を命じられた対象者の死に関して、可あるいは見送りの判断を下すこと。調査期間は一週間です。人間のふりをして任務に当たるのですが、実際には人間の感情は持ち合わせていません。味覚もなく痛みも感じず睡眠を取る必要もない。でもそこは怪しまれないように、殴られれば痛いふりをしたり、恐いふりをして見せるわけです。

 感情がないということは、しがらみもこだわりもなく、あらゆるものに対して恐怖を感じることがないのですね。恐怖という感覚がないと、こんなにもシンプルに生きられるのかと思わず死神が羨ましくなります。もちろん、彼は愛も感じることはないのですが、死神・千葉は何とも愛すべきキャラクターなのです。「人間って変な生き物だなあ」といつも呆れている死神・千葉が爽快でした。

 千葉に恐怖の感情がないので、死も自然なもののように描かれます。胸が塞がるような悲惨な状況にいる対象者も登場します。でも、あ、そうか彼もあと何日かで死んじゃうんだ、と不思議にこちらも救われる気持になります。

 最初、軽めに流した、と思っていた話もちゃんと最後に繋がる憎い演出。そしてそれ以上に見事と思ったのは、死神・千葉の仕事も終焉を迎えたと暗示させる描写でした。千葉さんも救われたのだなあ、と。読み終ってみれば、この本、伊坂さんの中で一番好みかもしれません。初めて伊坂幸太郎を読む方へ、最初の一冊にお薦めです。


★次回は、松井今朝子の「そろそろ旅に」です。

# by cuckoo2006 | 2011-11-04 15:31 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「ひそやかな花園」 角田光代[著]  

2011年 10月 23日

内容紹介
幼い頃、毎年サマーキャンプで一緒に過ごしていた7人。
輝く夏の思い出は誰にとっても大切な記憶だった。
しかし、いつしか彼らは疑問を抱くようになる。
「あの集まりはいったい何だったのか?」
別々の人生を歩んでいた彼らに、突如突きつけられた衝撃の事実。
大人たちの〈秘密〉を知った彼らは、自分という森を彷徨い始める――。
 親と子、夫婦、家族でいることの意味を根源から問いかける、
角田光代の新たな代表作誕生。


 「対岸の彼女」、「八日目の蝉」に続いて3冊目の角田光代さん。寝床読書二晩で読了しました。 やっぱり読ませますねえ。

 沙有美は、子供の頃、毎年サマーキャンプで過ごした夏の数日間のことを繰り返し思い出して来た。自然の中、何組かの家族が集い、年の近い子供達がいた。それは彼女にとって完璧に幸せな時間として記憶されていた。しかし、ある年を境にその集まりはなくなり、想い出に繋がるものは何もない。母親もそんなところに行ったことはないと言う。沙有美もあの夏の日々が自分の空想の中のことのようにも思えてくるのだった・・・これが物語のプロローグです。

 続いて、沙有美の記憶の中の“小さな子供だった”人物が次々にキャンプの思い出を語ります。あの夏の日々が自分にとってどんなものだったのか、そして、突然集まりが中止されてから自分達家族に何が起こったのかを・・・・・

 子供達にとって、なぜサマーキャンプがそんなにも楽しかったのか、それは良く解りました。母親が幸せそうにはしゃいでいるだけで、小さな子供は天にも昇る心地なのですよね。母親達が不安から解放され、そこでだけ見せる華やいだ様子が、サマーキャンプを子供達の記憶の中で特別なものにしたのでしょう。そう考えると切ない。若かった父親達が抱え込んだ苦しさも想像できました。

 サマーキャンプのメンバー男女7人が、真実を受け止めたことにより、それぞれの方向へ歩み出します。 仲間に劣等感を抱いてきた沙有美が語るエピローグは、彼女の確かな成長を応援したかった。少々突飛な舞台設定でも、登場人物達は今を生きていて心情に共感できます。物語を無理なく動かしていく、相変わらず安定度抜群の角田さんでした。


★次回は、伊坂幸太郎の「死神の精度」です。

# by cuckoo2006 | 2011-10-23 15:41 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「ゴーストライター」 監督ロマン・ポランスキー  

2011年 10月 19日

ストーリー:元英国首相アダム・ラングの自伝執筆を依頼されたゴーストライターが、ラングの滞在する孤島を訪問。取材をしながら原稿を書き進めていくが、次第にラングの過去に違和感を抱き始める。さらには前任者の不可解な死のナゾに行き当たり、独自に調査を進めていくが、やがて国家を揺るがす恐ろしい秘密に触れてしまう。「チャイナタウン」「戦場のピアニスト」のロマン・ポランスキー監督が描く本格サスペンスで、第60回ベルリン国際映画祭銀熊賞(最優秀監督賞)を受賞。ユアン・マクレガー、ピアース・ブロスナンらが共演。
キャスト: ユアン・マクレガー、ピアース・ブロスナン、キム・キャトラル、オリビア・ウィリアムズ、トム・ウィルキンソン、ティモシー・ハットン、ジョン・バーンサル、デビッド・リントール、ロバート・パフ、イーライ・ウォラック
(映画.comより)

 週刊文春の「シネマチャート」で、めったに出ないジャッジするほぼ5人全員が★5つつけた作品。これは観逃せぬと上映館へ出かけました。しかし、プロがこぞって絶賛というのは、かなりクオリティの高い作品なのですね。張り巡らされた伏線は一瞬だけ見せられ、テンポ良い展開にまどろっこしい説明は一切なし。飲み込みの悪いオバサンは苦戦しました。

 元イギリス首相の自伝執筆を依頼されたゴーストライター(劇中での名前なし)は、気乗りしないまま高額の報酬につられ、元首相が滞在する孤島へ出かける。ゴーストライターは、孤島の瀟洒な屋敷で、元首相と妻、女性秘書らと会い取材を始める。この自伝執筆の前任者は、首相補佐官を務めた人物だったが、執筆中に事故死している。ゴーストライターは、取材を進めるうち、元首相の話に小さな矛盾を感じ、また前任者の死に疑問を抱く。彼は孤島の中で密かに調査を始める。そんな中、イスラム過激派の拷問に加担した容疑で、元首相に捜査の手が伸びる。やがてゴーストライターは、前任者が書き残した自伝の中に残した驚くべきメッセージを読みとる・・・・・

 ネタバレアリのブログを見つけて何とか頭の中を整理できたのですが、まだ霞みは晴れません。前任者の元補佐官は、元首相の意思のもとに伝記にメッセージを残したのですよね。でも、それを公にすることは不可能なので、そのメッセージを誰に伝えようとしたのか。次のゴーストライターに、なのでしょうか。元首相にとっては、それは明かしたくない最大の秘密と思うのですが、それ以上に、組織と、ある人物に一矢報いたかった、という訳なのでしょうか、、、核心の部分に靄がかかったままです。

 ラストシーンの見せ方も最高の恰好良さです。でもこの時には私の頭の中は疑問符でもう満杯。筋に乗り遅れると一級品の雰囲気も楽しめないものですね。そんなわけでロマン・ポランスキー監督に歯が立たちませんでした。ザンネン。


@ヒューマントラストシネマ有楽町


★次回は、角田光代の「ひそやかな花園」です。.

# by cuckoo2006 | 2011-10-19 00:37 | 洋画 | Trackback | Comments(0)

「最終目的地」 ピーター・キャメロン[著]  

2011年 10月 05日

内容(「BOOK」データベースより)
南米ウルグアイの人里離れた邸宅に暮らす、自殺した作家の妻、作家の愛人と小さな娘、作家の兄とその恋人である青年。ナチスの迫害を逃れてきた先代が、ドイツ風の屋敷をたてたこの場所で、人生を断念したかのように静かな暮らしが営まれていた。そこへ突然、作家の伝記を書こうというアメリカの大学院生がやってくる。思いがけない波紋がよびさます、封印した記憶、あきらめたはずの愛―。全篇にちりばめられたユーモアと陰翳に富む人物像、それぞれの人生を肯定する作者のまなざしが、深く暖かな読後感をもたらす。英国古典小説の味わいをもつ、アメリカの傑作小説。


 2年前の新聞の書評欄の切り抜きがひょっこり出てきて、予約待ちゼロで図書館から借りられました。2009年発刊です。

 やはり書評を切り抜いた(随分忘れていたが)だけのことはあって自分好みでした。ミステリー要素ナシでこれだけの長編をぐいぐい読ませるのは作者の筆の巧みさでしょう。登場人物の一人一人がクリアな輪郭で浮かび上がってきます。
 
 一作の小説を世に出した作家の伝記執筆の公認を得るため、アメリカの大学院生は三名の遺言執行者の説得のためウルグアイへ向かう。この伝記には彼の将来がかかっていた。彼を迎えた遺言執行者の三名とは、作家の妻と、愛人と、作家の兄。妻と、愛人と小さな娘は、同じ屋敷の別棟で暮し、作家の兄は、若いパートナーの男性と少し離れた住居にいる。大学院生には、ウルグアイ行きを彼に強く薦めた年上のガールフレンドがいる。

 これが物語を構成する登場人物です。作家の妻と愛人は、互いを認め合い不思議な均衡関係を保っています。また、作家の年老いた兄と若いパートナーも小さな摩擦を生じながらも優しく労りあっている。そこへ、愚かしいほどの純粋さ、正直さを持った大学院生が現れることにより、危ういバランスを保っていた彼等の関係が変化していきます。めったにない来客に心浮き立つ者、その反対に固く心を閉ざす者、三者三様の反応を見せます。

 たくさんの会話体の中に、穏やかで慎ましい人々の本音が顔を出します。妻と愛人の互いに対する辛辣な評価など、そりゃあ、そうだろう、と納得。そもそも、なんで妻と愛人が作家の死後も(死ぬ前だって)一緒にいるのか?その理由もやがては明らかになり、彼等の過去も語られていきます。大学院生の子供のような無防備さが、皆の口を自然に開かせてしまうのでしょう。

 伝記執筆へそれぞれの思惑がぶつかり合い、仕舞い込んでいた作家への思いも溢れ出します。そしてまた、彼等の運命も動き出す。私は、結構嫌な女だった「妻」に多く感情移入するところがありました。その彼女が大きく歩み出したことに心が晴れました。幾つかの恋愛関係が描かれますが、印象に残ったのは、「自分が自分でいられること」が人間関係のキーだという大学院生の言葉。これも我が意を得たりでした。

 この本は映画化され、一番好感が持てた作家の兄役がアンソニー・ホプキンス、これはイメージピッタリ。その恋人役は、真田広之だったそうでこちらはピンときません。その恋人の青年が、大学院生とガールフレンド(彼女もウルグアイに現れる)を空港へ送る際、二人から彼の期待していたような態度や言葉が示されず、失望して帰途につく心理描写など、覚えのある切なさが染みました。そう、誰もがどこか思い当たるようなたくさんの感情が掬いとられています。共感できました。

 それにしても、もし大学院生がウルグアイを訪れていなかったら、と考えるとゾッとしますね。彼の出現が、結果的にすべての人に良い結果をもたらした。そして、彼自身の最終目的地も変更されたのでした。


★次回は、映画「ゴーストライター」です。

# by cuckoo2006 | 2011-10-05 15:28 | 本(外国のもの) | Trackback | Comments(0)

「探偵はBARにいる」 監督橋本一  

2011年 09月 28日

ストーリー:作家・東直己のデビュー作「探偵はバーにいる」を1作目とする「ススキノ探偵シリーズ」の第2作「バーにかかってきた電話」を映画化。札幌の歓楽街ススキノで活躍する探偵のもとに、コンドウキョウコと名乗るナゾの女から「ある男に会い、彼にひとつ質問してほしい」という依頼が舞い込む。簡単な依頼のはずが、探偵はその直後に命を狙われ、不可解な事件に巻き込まれていく。主人公の探偵に大泉洋、相棒に松田龍平。そのほか小雪、西田敏行らが共演。  キャスト:大泉洋、松田龍平、小雪、西田敏行、マギー、榊英雄、本宮泰風、安藤玉恵、新谷真弓、街田しおん、桝田徳寿、野村周平、カルメン・マキ、中村育二、阿知波悟美、田口トモロヲ、波岡一喜、有薗芳記、竹下景子、石橋蓮司、松重豊、高嶋政伸(映画.comより)

 フィリップ・マーロウを引きずって観ましたが、大泉マーロウもなかなか良い感じ。雰囲気のある映画でした。好みです。

 舞台は、札幌ススキノ。ケータイを持たない探偵(劇中での名前はナシ・大泉洋)は、名刺に根城にしているバーの電話番号を印刷しています。小雪のちらつく歓楽街の裏通りは日本じゃないようなちょっとした異空間。その一角にある小さなバーの電話から、探偵に一本の仕事の依頼が入ります・・・・
 
 探偵とアルバイト助手(松田龍平)が毎夜トントンと階段を下りていくこの地下バーが、国籍・時代共に不詳のいいムード。カウンターの探偵の前に、バーテンダーが優雅な所作で時代がかった黒電話を差し出します。それから、毎朝探偵がナポリタンを食べる喫茶店や、助手のいる農学部研究室、そして謎めいたマダム(小雪)が経営する高級クラブなど、どこか懐かしいような洒落た雰囲気が楽しめます。

 筋立てもいい具合に入り組み、私も探偵と一緒にすっかり騙されました。ほー、そう来たか、という結末です。ラストシーンは、クラーク博士が空へ右手を掲げる羊ヶ丘展望台。冬は、向こうに見える札幌ドームから一面の雪景色になるのですね。新緑の頃、銅像の前で写真を取って、ここから北大のポプラ並木に向かったことを思い出しました。北海道が舞台というのがこの映画の大きな魅力でしょう。

 それにしても、めちゃくちゃに痛めつけられるところ、依頼人を守り切る美学、そして小道具としての酒など、やっぱり、ハードボイルドの教科書はフィリップ・マーロウなんだなぁと、ちょっと嬉しくなりました。


@TOHOシネマズ西新井


★次回は、ピーター・キャメロンの「最終目的地」です。

# by cuckoo2006 | 2011-09-28 17:32 | 邦画 | Trackback | Comments(2)

「ロング・グッドバイ」レイモンド・チャンドラー[著]村上春樹[訳]  

2011年 09月 16日

私立探偵フィリップ・マーロウは、億万長者の娘シルヴィアの夫テリー・レノックスと知り合う。あり余る富に囲まれていながら、男はどこか暗い蔭を宿していた。何度か会って杯を重ねるうち、互いに友情を覚えはじめた二人。しかし、やがてレノックスは妻殺しの容疑をかけられ自殺を遂げてしまう。が、その裏には哀しくも奥深い真相が隠されていた……村上春樹の新訳で話題を呼んだ新時代の『長いお別れ』が文庫版で登場。(文庫本裏表紙より)

 
 モチロン、訳者の村上春樹に惹かれて読みました。村上氏が、これまでの人生で出逢った最も重要な三冊の本。それは、フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」とドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」、そしてこの「ロング・グッドバイ」だそうです。

 「グレート・ギャツビー」と「ロング・グッドバイ」を幸せなことに村上訳で読むことができました。あとの一冊「カラマーゾフの兄弟」を読む根性は、もう私には無さそう。でも、もしこの先、村上氏が「カラマーゾフの兄弟」を翻訳する根性を発揮したら、その時はまた考えることにしましょう。

 さて、フィリップ・マーロウですが、かの有名な「タフでなければ生きられない、優しくなければ生きる資格がない」って彼のセリフ(別の本の中でですが)だったのですねえ。約束とも言えぬような約束を守るため得体の知れない敵に挑み、徹底的に痛めつけられても怯まず一人戦い続ける。格好良さの原点のような男です。生きる美学に名言に酒の銘柄、ファッションまで、マーロウは、ずっーとハードボイルドのヒーロー達のお手本になってきたのでしょう。そう言えば「探偵はBARにいる」の大泉洋もギムレット飲んでましたっけ。

 舞台は、1950年代、アメリカ。億万長者を父に持つ妻殺害の疑いをかけられ自殺する夫、マーロウは友人である夫の犯行に疑問を抱く。やがてマーロウの前に現れる流行作家ととびきり美しい妻、この上流階級の二組の夫婦が縺れ合うように抱える深い闇。マーロウは彼等に翻弄されながらも大胆さと緻密さを持って真相に近づいていきます。人々の心に戦争の傷跡がまだ残り、独特の退廃的かつ洗練されたムードの中、酒と会話にじっくり浸りながら物語は進んで行きます。

 この「ロング・グッドバイ」、村上氏の小説に影響与えてるなあ、とあっちこっちで嬉しい発見がありました。村上作品には、主人公・「僕」の日常生活の描写が良く見られます。『僕は、顔を洗い髭をあたり、パンにバターを塗りキュウリとチーズを挟み、コーヒーを作り、流しを片付けた』(いい加減な記憶で書きました)という具合。味噌汁だったら、キャベツとじゃがいも(また記憶より)というふうに具の描写まであります。エッ、こんなことまで書くの、と思うのですが、主人公の丁寧な暮しぶりも私には魅力の一つ。で、マーロウにも同じような描写がありました。『私はキッチンに行って、カナディアン・ベーコンとスクランブル・エッグとトーストとコーヒーを作った』(P.23)というふう。マーロウも心を落ち着かせるために掃除したりシーツを取り換えたりします。綺麗好きなところも「僕」に重なるのです。

 そして、もう一つ似てるのは、会話のスタイル。村上氏と言えば、「いやはや」「なるほど」などという一言の受け答えが定番ですが、マーロウも「率直に言って」「あるいは」「一点のくもりなく」とか良く言います。もろろん当然、訳者の文章スタイルが反映されると思いますが、同じケースの「グレート・ギャツビー」では全く感じないことでした。この「ロング・グッドバイ」に村上氏が影響を受けたことを直に感じられたのは、村上ファンとしては堪らないことでした。

 この本の中の名セリフは、『さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ』(P.571)めちゃくちゃに殴られた顔での美女とのラブシーンの翌朝のセリフです♪

 村上さん、やっぱり、カラマーゾフの兄弟、待ってますよ!


★次回は、映画「探偵はBARにいる」です。

# by cuckoo2006 | 2011-09-16 23:49 | 村上春樹 | Trackback | Comments(6)

「うさぎドロップ」 監督SABU  

2011年 09月 06日

ストーリー
累計発行部数60万部を突破した宇仁田ゆみの人気漫画を、SABU監督が松山ケンイチ主演で実写映画化。亡き祖父の隠し子である6歳の少女りんを引き取り、不器用ながらも必死に育てようと奔走する姿を描く。りんを演じるのは、「告白」「ゴースト もういちど抱きしめたい」の天才子役・芦田愛菜。また、りんと同じ幼稚園に息子を通わせるシングルマザーのモデルを演じる香里奈のほか、池脇千鶴、木村了、キタキマユ、風吹ジュン、中村梅雀らが脇を固める。
キャスト
松山ケンイチ、香里奈、芦田愛菜、桐谷美玲、キタキマユ、佐藤瑠生亮、綾野剛、木村了、高畑淳子、池脇千鶴、風吹ジュン、中村梅雀(映画.comより)


 久々に映画を観てプッと吹き出したり声を上げて笑ったりしました。CMに出てると目が釘づけになる嬉しいマツケン主演作品です。

 祖父の葬式に集まった親戚一同は、祖父に6歳の隠し子・りん(芦田愛菜)がいることを初めて知る。中年の子供達は驚愕し、邪魔者のように彼女の存在を迷惑がります。大人たちの態度にすっかり憤慨し、失意のりんを見ていられなかったダイキチ(松山ケンイチ)は、「俺が育てる」と宣言してしまいます。

 ダイキチの両親も含めて親戚達は遺産云々の問題で揉めた訳ではなく、あくまでりんの養育について引き取ることを拒んだのです。当然のことながら大人達は皆、子供を育てることがどんなに大変かを知っています。自然な反応でしょう。

 この大変さをただ一人理解していないのがダイキチ、というわけでした。一人暮らしの家へりんを連れ帰った翌朝、「アタシ、お腹すいた」と言われ正気に戻るダイキチ。「オ、オレ、格好つけちまったよ。どうしよう、、、どうしよう」とトイレへはいつくばって逃げ込む姿にもう大爆笑でした。

 まずは保育園探し、りんに必要なものの買出しに食事作り、そして猛烈に忙しい自分の職場と、すぐさまダイキチの頭はぐちゃぐちゃになります。が、妄想癖のある彼は、ふっと広げた雑誌のページへ入り込み、バラの花を咥えて美女と踊り出します。「ダイキチさんって立派な方ね」と美女に褒められ元気づくのでした。こういう楽しさは、原作の漫画のテイストなのでしょうね。妄想に入るサインのラテン音楽が聴こえ出すと場内はクスクス笑いが広がります。

 さて、一変するダイキチの生活。毎朝、満員電車で会社の先の保育園まで、大荷物とりんを抱きかかえ走る、走る!夜は、残業を終えまたお迎えに走る、走る!また朝が来て、走る走る!綱渡りのような毎日がコミカルに描かれます。笑って観ていながらも、今、まさに、現在進行形でこういう生活を送っている若いお父さん、お母さんがたくさんいるのだ、ということがダイレクトに伝わってきます。

 ダイキチが、残業のない部署に異動を申し出て、そのことにためらいも後悔もないのは少々出来過ぎてますが、これが実の親だったら選択の余地はないのでしょう。それにしても(真っ只中にいる時は気付きませんでしたが)子供を育てるには、物凄いエネルギーがいるのですねえ。いったいどこから来るのかそのパワーは、という感じ。その生温かなエネルギーに圧倒された、というのがこの映画の一番の感想です。

 今、図書館で金原ひとみさんの話題作「マザーズ」を予約待ちしてます。“追い詰められた母親達”というのも今を掬い取っていると思います。でも一方で、この「うさぎドロップ」も子供と暮らすえも言われぬシアワセ感覚が描かれています。マツケンダイキチの大らかさ、いい加減さ、馬鹿正直さ、このシンプルさにヒントがあるのかも知れません。芦田愛菜ちゃんは、「阪神電車」と同じように演技がごく自然。とにかく気持の良い作品でした。


@TOHOシネマズ西新井


★次回は、レイモンド・チャンドラーの「ロング・グッドバイ」です。

# by cuckoo2006 | 2011-09-06 23:54 | 邦画 | Trackback | Comments(0)

「ツリー・オブ・ライフ」 監督テレンス・マリック  

2011年 08月 28日

「天国の日々」「シン・レッド・ライン」のテレンス・マリック監督が、ブラッド・ピット、ショーン・ペンを主演に描くファンタジードラマ。1950年代半ば、オブライエン夫妻は中央テキサスの田舎町で幸せな結婚生活を送っていた。しかし夫婦の長男ジャックは、信仰にあつく男が成功するためには「力」が必要だと説く厳格な父と、子どもたちに深い愛情を注ぐ優しい母との間で葛藤(かっとう)する日々を送っていた。やがて大人になって成功したジャックは、自分の人生や生き方の根源となった少年時代に思いをはせる……。製作も務めたピットが厳格な父親に扮し、成長したジャックをペンが演じる。第64回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した。
キャスト
ブラッド・ピット、ショーン・ペン、ジェシカ・チャステイン。(eiga.comより)


 
 この物語は、どうしてこんな大仰なことになってしまったのでしょうか?

 話の筋は普遍的なものです。ブラッド・ピット扮する父親は、成功するためには善人であってはならない、ひたすら強くあれ、と三人の息子達に非情なほど厳しく接します。が、期待通りにならない息子達に、また思い通りに行かない自分自身の人生に失望し、苛立ちを感じています。一番風当りを受けるのは長男で、その長男の怒り不安は、すぐ下の弟に向けられる。優しい次男は、長男の胸の内を幼いなりに理解し、兄の仕打ちに耐えているように見えます。三兄弟の母親(ジェシカ・チャステイン)は、信仰心厚く愛情深く、神話の世界に生きているように感じました。

 物語は、19歳になった次男の死の知らせを両親が受け取る場面から始まります。この弟の死がショーン・ペン演じる中年になった長男の心の苦しみに繋がっているように思えました。そして物語が動き出すとすぐに、スクリーンは原始の時代の宇宙や地球や海底の映像に変わります。これがもう延々と続いた。面食らわなかった観客はいないでしょう。

 宇宙の誕生、生命の神秘をこれでもかと言うほど見せられた後、画面は先ほどの家族へ戻ります。父親が子供達に喧嘩の仕方を教えたり、一緒に木を植えたり、水遊びしたり、美しい映像と音楽に、長男の記憶の引き出しが開くように場面は展開していく。画面は静けさに包まれています。でも次の瞬間に誰か叫び出すような予感のする静けさです。胸がざわざわしました。

 ラスト・シーンは、現在の長男とその妻、そして少年時代の三兄弟、若き日の両親、皆が皆、安堵の表情を浮かべ、神に導かれるかのように手を携えて歩みます。宇宙の映像に慣らされた後なので、もうどんなシーンにも違和感を感じません。この作品は監督自身の自伝的ストーリーで、彼の傷ついた魂を救済するために撮られたのでは、という気がしてきました。消化するのにまだまだ時間がかかりそうです。


@TOHOシネマズ西新井

# by cuckoo2006 | 2011-08-28 00:19 | 洋画 | Trackback | Comments(0)

「沼地の記憶」 トマス・クック[著]  

2011年 08月 23日

教え子エディが悪名高き殺人犯の息子だと知ったとき、悲劇の種はまかれたのだ。若き高校教師だった私はエディとともに、問題の殺人を調査しはじめた。それが痛ましい悲劇をもたらすとは夢にも思わずに。名匠が送り出した犯罪文学の新たなる傑作。あまりに悲しく、読む者の心を震わせる。巻末にクックへのインタビューを収録。(文庫本裏表紙より)


 
 唸りました。トマス・クック、やっぱり巧い!

 老年になった元教師の語り手が、若き教師時代を振り返る形で物語は進みます。舞台は、人種と階級で地区が線引きされていた頃のアメリカ南部レークランド。裕福な名家の一人息子として育った彼は、父と同じように地元の公立高校で教師になる道を選ぶ。この町にいる限り特別な存在として敬われる彼は、自分のことを誰一人知らない外の世界へ出て行く勇気はなかったのでした。

 24歳の彼は、恵まれない環境にいる生徒達を少しでも向上させようと熱心に指導します。それは未熟で傲慢な手法だったのですが、彼に教育者としての自信を芽生えさせます。やがて更に彼は、特定の生徒の人生に影響を及ぼしたい、と切望するようになります・・・・・

 暗く静かなトーンで、過去と現在を行き来しながら、語り手は自らの胸の内を晒し、登場人物達の心の奥底を覗き込みます。いったい何が起こるのか、、、何が起きたのか、、、。誰が犯人なのだろう?ではなくて、何が起きるのだろう?という不吉な胸騒ぎのなか、物語はひたひたと進んでいきます。

 悲劇は、結果的にたった一つの不用意な言葉と沈黙から起きました。その悲劇の後、閉鎖的なコミュニティーで、人々がどのように年を取っていったかも明かされます。わたしは、語り手である教師を責める気持ちにはなれませんでした。ラスト3ページに最後の衝撃が待ち構えます。


★次回は、映画「ツリー・オブ・ライフ」です。

# by cuckoo2006 | 2011-08-23 23:23 | 海外ミステリー | Trackback | Comments(0)

「コクリコ坂から」 監督宮崎吾朗  

2011年 08月 17日

ストーリー
「なかよし」(講談社刊)に連載された高橋千鶴・佐山哲郎による少女漫画をスタジオジブリが映画化。宮崎駿が企画・脚本、「ゲド戦記」の宮崎吾朗が同作以来5年ぶりに手がける監督第2作。1963年の横浜、港の見える丘にあるコクリコ荘に暮らす16歳の少女・海は毎朝、船乗りの父に教わった信号旗を海に向かって揚げていた。ある日、海は高校の文化部部室の建物、通称「カルチェラタン」の取り壊しに反対する学生たちの運動に巻き込まれ、そこで1学年上の新聞部の少年・俊と出会う。2人は徐々にひかれあっていくが……。海役に長編劇場アニメ声優初挑戦の長澤まさみ。俊役は「ゲド戦記」に続き2度目のジブリ作品参加となる「V6」の岡田准一。
キャスト
長澤まさみ、岡田准一、竹下景子、石田ゆり子、柊瑠美、風吹ジュン、内藤剛志、風間俊介、大森南朋、香川照之(eiga.comより)


 残念ながら、期待外れでした。どうしてこのお話ををアニメーションにする必要があるのかと思ってしまった。人間離れ、というか、バケモノというか、そういうキャラクターが1コも登場しない宮崎アニメを初めて観た気がします。“小人のアリエッティ”も“カオナシ”も“トトロ”も出てきません。人間しか出て来ないというと「おもひでぽろぽろ」を思い出しましたが、あれは過去の世界から小5の自分が現れるので、アニメに違和感がありませんでした。声の出演は今井美樹と柳葉敏郎で好きな作品です。
 
 アニメと言えば私はやはり、脳や五感がジワ~ッと癒される、夢と現実の狭間を漂うような浮遊感を味わいたい。この映画のTVCMで頻繁に流れていた手嶌葵さんの歌のような雰囲気、です。さあ、その世界へと、映画館に向かったのですが、その世界は一向に見当らず脳ミソも気持良くなれぬままでした。

 それじゃあ、お話の筋はというと、『伝統ある学生寮取り壊しに反対する高校生の団結』と、『好きな人ともしや血の繋がった兄妹かもしれない、、、』という、いったいどこから発掘してきたのか、というもの。若い人達にとっては、こういうのって、逆に新鮮に映るのかなあ。ギモンです。そんなわけで今年の夏のスタジオジブリとの相性は×でした。


@TOHOシネマ西新井


★次回は、海外ミステリー、トマス・クックの「沼地の記憶」です

# by cuckoo2006 | 2011-08-17 16:00 | 邦画 | Trackback | Comments(0)

「猫を抱いて象と泳ぐ」 小川洋子[著]  

2011年 08月 06日

「大きくなること、それは悲劇である」。この箴言を胸に十一歳の身体のまま成長を止めた少年は、からくり人形を操りチェスを指すリトル・アリョーヒンとなる。盤面の海に無限の可能性を見出す彼は、いつしか「盤下の詩人」として奇跡のような棋譜を生み出す。静謐にして美しい、小川ワールドの到達点を示す傑作。(文庫本裏表紙より)

 
 

 久々に読み終えるのが惜しくなる小説でした。「博士の愛した数式」しか読んだことがなかった小川洋子さんの並々ならぬ才能を感じました。
 
 読み進むうちにひょっとしてこれは本当にあった話なのかな、という気がしてきました。最終章のあとに、自動チェス人形と、それを操作していた、この物語の主人公であるリトル・アリョーヒンが確かにこの世に存在した証拠が示されます。それは、今も私営チェス博物館に展示されているチェスゲームを記録した棋譜でした。変色したその一枚の棋譜から、作者のイマジネーションは、リトル・アリョーヒンの美しく儚い人生を繰り広げてみせます。
 
 少年は、祖母と弟と出掛けるデパートで、一人屋上のいつもの場所で過ごします。そこには、小象のときにインドから運ばれ、大きくなり過ぎたため屋上から降りることができなくなったインディラの形見の足輪がありました。少年が、屋上で一生を過ごした象のインディラに思いを馳せるこの冒頭シーンに、小説の世界へスルリと吸い込まれていきます。
 
 続いて描かれる、少年とチェスの師匠・マスターの交流も実に暖かく優しいものです。住居用に整えられた回送バスの中で、学校帰りに少しずつ馴染んでいくチェスの世界。大きな窓の外には季節の移り変わりがあり、バスの中はマスター手作りのおやつの匂いが溢れる。マスターは美しい棋譜を描くチェス指しでした。「慌てるな、坊や」といつも語りかけるマスターに、少年はチェスのすべてを教わる。やがて、ここから少年は、伝説のチェスプレイヤー・リトル・アリョーヒンとなり、果てしないチェスの海へ泳ぎ出していきます、“猫を抱き、象とともに”・・・・・

 登場人物たちは、みな“閉ざされたところから出られない”状況にあります。閉じ込められ身動きができないからこそ、肉体と精神が研ぎ澄まされ、誰も手の届かない境地へ、リトル・アリョーヒンは到達できたのかも知れません。彼が掴んだ愛も崇高なものでした。とは言っても、これだけの才能がありながら、リトル・アリョーヒンの生涯はあまりに哀し過ぎました。
 
 俳優の山崎努氏が巻末の解説でこんなふうに書いてます。
『自分から望んだわけでもないのに、ふと気がついたらそうなっていた。でも誰もじたばたしなかった。中略「仕方ない事情」は受け入れたほうがいい。それも早目に。そのあとにお楽しみが待っているのだから、と仕方なくなってから七十数年を過ごした僕はあらためて思う。』
これには、しっくり来ました。そう、ここからどこへも行けないのだから、ここでうんと頑張り楽しむ。この本の感想として、そのままイタダイテしまいます!


★次回は、映画「コクリコ坂から」です。

# by cuckoo2006 | 2011-08-06 14:50 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

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