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「かけら」青山七恵[著]内容紹介
家族全員で出かけるはずだった日帰りのさくらんぼ狩りツアーに、ふとしたことから父と二人で行くことになった桐子。口数が少なく、「ただのお父さん」だったはずの父の、意外な顔を目にする(表題作)。結婚を前に、元彼女との思い出にとらわれる男を描く「欅の部屋」、新婚家庭に泊まりに来た高校生のいとこに翻弄される女性の生活を俯瞰した「山猫」。川端賞受賞の表題作を含む短編集。 本を開いて数ページ読むと、作者との相性が分かります。この本は、もう数行でしっくり来ました。外出先で、この本の続きが読みたいためにお茶したりベンチに腰かけたりしました。三編を一日で読了。独特の雰囲気のあるお話です。 表題の「かけら」は、父とさくらんぼ狩りのバスツアーに行く話。元々は、遊びに来た兄の子供のために母が予約したツアーでしたが、兄の子供が熱を出し、女子大生の娘は父親と二人で参加するはめになります。朝の集合場所で父を見つけてからの日帰りツアーの一日が淡々と描写されます。中高年女性グループでいっぱいのバスの中、父娘の弾まない会話や休憩所での様子、さくらんぼ狩りに昼食と何も起きないままツアーは進行していくのですが、これが退屈しないのです。父がツアーのご婦人達に頼み事をされたり、お年寄りに手を貸したりするのも娘にとっては初めて目にする不思議な光景そのもの。娘が、この父の良さを分かるのにはまだ数十年はかかることでしょう。 次の「欅の部屋」もドラマチックなことは何も起りません。結婚間近い男性は、長年暮らして来た部屋から新居へ越そうとしている。同じ建物の別の部屋には、数年前まで付き合っていた彼女がまだ住んでいました。新生活への準備の最中に、元の彼女との思い出が断片的に蘇ります。今の彼女に不満があるわけでもなく、元の彼女に未練があるわけでもありません。いよいよ引越しの日、ドラマだったらここで元彼女と出くわすだろうに、もちろんそんなことは起らない。それでもアパートを出る時、そっと彼女の部屋のカーテンを振り返ったりもします。人って本当にこうして今の場所から次へと移っていくのだなあとしみじみ思いました。 最後の「山猫」は、大学受験を控えた親類の娘を数日間預かる新婚女性の話。叔母の突然の頼みに戸惑いながらも、これまでほとんど付き合いもなかった離島に住む従妹に、出来る限りのことをしてやろうとする彼女でしたが、、、これも読んでいるだけで神経が疲れてくるようなリアリティがありました。 三編とも、何と言うこともないけれども、胸に小さく句点を残したような一日のお話。物語のそこここにある、気詰まりや気まずさ、気疲れなど覚えのある感情に共鳴しました。ほんとに普通の生活ってこんなふう。特別なことは何も起らないドラマ、好みでした。 ★次回は、ウディ・アレン監督の「恋のロンドン狂想曲」です。
by cuckoo2006
| 2012-12-09 18:12
| 本(日本のもの)
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