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「澪木」朴重鎬[著]


 d0074962_15010304.jpg『「北」への帰国とは何だったのか。祖国・北朝鮮へ帰国した弟夫婦の惨憺たる生活、子どもたちを民族学校から日本の学校へ転校させる姉夫婦、そして「愛国組織」──。一人の女性の生に在日同胞の現代史を集約して描く力作長篇小説。』(帯より)




 読んでいて楽しくなる本ではありませんが、強く引き込まれました。時代は1950年代後半、主人公の明姫(ミョンヒ)は東京にある民族学校の教師。「愛国事業」に関わる編集者の夫、一歳の娘と暮らしています。朝鮮料理店を営む明姫の両親は濃密な愛情を子供達に注いでいます。

 

 明姫の日常生活を通して「愛国組織」への忠誠と同胞達との肉親のような絆が描写されます。日本という国に住みながら祖国・北朝鮮の一員としての強固な価値観を持つ人びと。彼等の内面を始めて知る思いでした。

 

 私達と懸け離れた世界にいる明姫ですが、妻、母、娘としての思いは当たり前過ぎるほど普遍的です。実家を助けることについての夫への遠慮、両親が自分を頼り切っていることへの気の滅入り、乳飲み子と保育園で別れる切なさなど身に覚えのある感情が沸き上がります。作者が男性であることが信じられないほど明姫の揺れ動く胸の内にリアリティがありました。


明姫は弟の面倒を見ながらも、おとなし過ぎる性格に不甲斐なさを感じています。その弟が、亡くなる前のオモニ(母親)の世話を買って出ます。病院の暗い小部屋で死を待つオモニ。弟の優しさが明姫の心を救います。強く印象に残る場面でした。


オモニの死後、父と弟は祖国への帰国を決めます。これが彼等にとって未来の開ける、正しい選択と信じ送り出す明姫。彼女は心に重りをつけたように苦しむことになります。


祖国での苛酷な生活は、弟家族からの手紙文ですべて表現されます。手紙は毎回、生活の苦しさを嘆き、時計、ミシン、靴などを送ってくれという訴えで占められます。弟家族の叶えられない願いは次第に怒りを含んだものに変わっていきます。


弟一家へ心配と同情を深めながらも、それらの手紙は明姫の心を彼等から遠ざけます。夫の看病のため教員を辞め北海道で暮らす明姫の生活も厳しいものでした。現実感にあふれた双方の心理描写に胸が塞がれます。

 

 物語の中には日本人がほんの僅かに登場します。明姫の近所の日本人主婦達は軸のない、ふわふわとしたお気楽な存在に描かれます。仲良くしていても明姫と彼女達の間には、はっきりと一線が引かれていることが感じられます。

 

 もう一人終盤に登場する、夫の子供の頃からの知り合いの「森田の小母さん」。彼女はお裾分けや心付けを申し訳なさそうにそっと置いておくような心根の優しい人。日本人読者としては彼女の存在に救われます。


日本で生きていく以外に道はない明姫夫婦は、娘達を民族学校から日本の公立小学校へ転校させることを決意します。民族学校の寄宿舎から娘達の荷物を夫婦が運び出すところで物語は終わります。


重く暗い題材ですが、「いじいじ考えてばかりいて何もしないでいるのは性に合わない」明姫の気質が物語を支えています。

 

 生まれ育った日本と祖国に引き裂かれながら人生を歩む主人公。その心の深淵に少しだけ触れる思いで本を閉じました。


by cuckoo2006 | 2017-12-01 18:15 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)
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