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「父親たちの星条旗」 監督クリント・イーストウッド
『太平洋戦争の末期、硫黄島では日米軍による戦闘が開始されようとしていた。アメリカ軍は当初、5日もあれば硫黄島は落ちると目していたのだが、その予想は外れ、日本軍を相手に36日間もの死闘を繰り広げることになる。』
あまりにも悲しくむごい作品でした。演じた俳優の一人が、試写を見終った後の感想を聞かれ「葬儀会場から出て来た気分」と公式HPの中で答えていましたが、的確な表現かも知れません。エンドロールが終わると観客達は押し黙ったままゾロゾロ出口へと向います。それでも新鮮な冷たい風にサッと空気が入れ替わったような感覚を抱きました。 スッと背筋が伸びました。今年観た映画のベストワン作品です。 硫黄島へ強襲上陸し前進を続けるアメリカ海兵隊、姿の見えない日本軍との戦闘シーンが何十分続いたでしょうか。実写フィルムのような生々しさにズシンズシンとみぞおちを突く砲弾の音、最後には大泣きしながら逃げ惑っている自分自身を感じるほどでした。観客にざわざわとした恐怖を体感させる。この戦場でのシーンが、若い兵士達が負った心身の傷を見る者に共有させることに成功しています。英雄として祭り上げられ心がボロボロになりながらもキャンペーンツアーに引き回される三人の若者達の痛みが身体を通して伝わってきました。 そして、星条旗を掲げた六人の兵士のうち生き残った三人の一人、衛生下士官・愛称ドクのキャラクターに引き付けられました。原作は、このドクの息子によって書かれています。実は本を読んだ時、自分の父親だけ随分と良く書いてるなあという気持がありました。 けれどもそれを差し引いても映画の中のドクは素晴らしかった。物静かだけれども強い意志を秘め、苦しんでいる人間にそっと近づき手を差し出します。息子を失った母親達へ苦しまない最期であったと偽りの報告をします。そして戦後は一切の取材を拒否する。戦場でドクと呼ばれ仲間達の厚い信頼を得ていたことが良く分かりました。 今年観た映画の中で、このドクが文句なく一番好きなキャラクターでした。あともう一人惹かれた人物を挙げるとすると「紙屋悦子の青春」の原田知世演ずるヒロイン悦子でしょう。 己を律する芯の強さと真の賢さ、自分に決定的に欠けているものなので、私にとってどちらも理想とする人間像に思えました。 最後にタイトルバックに実際の当時の写真が映し出されます。戦場の写真、戦時債を売るキャンペーンの写真、星条旗を揚げた後戦死した三人の兵士の母親達が記念碑の除幕式に招かれ並ぶ写真、精一杯着飾っているその表情に悲しみと戸惑いがあります。一枚一枚が胸を突きました。 クリント・イーストウッドは、日本側から見た「硫黄島からの手紙」も監督しています。本編に続いての予告はどうも私の苦手のタイプの戦争映画のよう・・・観に行くかどうかは今週末公開の模様をみてから決めようと思います。 @T・ジョイ大泉
by cuckoo2006
| 2006-12-04 09:47
| 洋画
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