小説、映画、絵手紙、都々逸
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カテゴリ:エッセイ@文章教室( 2 )

「一人旅」エッセー@文章教室

一人旅

               

 京都、長崎、四国へ一人旅したことが私の小さな自慢である。家族で旅行する時は万事が夫任せ。私の切符まで預かってくれる。

一人旅は私にとって期待と不安に満ちた大冒険なのだ。東京駅で駅弁をじっくり選び、切符を握りしめて新幹線の座席に着く。さあ、ここから自分一人で見知らぬ街を目指すのだ。

自分で作った行程表には、列車の時刻や見学場所の滞在時間などが細かく書き込まれている。どこで降り、どの在来線に乗り替えるか。名所までの交通機関は。夕食はどこで取るか。何時に宿に着くか。頭の中で反芻する。

  鳴門の渦潮を見に行った時、徳島へ戻る最終バスは三時台。間に合わずにタクシーを呼んでもらった。現地に行かなければ分らないこともある。

  用意周到のつもりでも、必ず乗り間違ったり道に迷ったりする。情けなくなるが、そんな時でも一人旅は気楽なものだ。誰かに迷惑を掛けることも気を遣うこともない。

「ドジだねえ。ま、ゆっくり行こうか」

自分にそう言うだけだ。

  どこへ行っても、その土地の人は親切だった。地図を見るのが苦手な私は、すぐ人に道を尋ねる。尋ねた場所まで連れて行ってもらったことが何度もある。

  長崎の街の坂の上で、「大浦天主堂は、ここを下ったところです」と途中まで案内してくれた娘さん。「お気をつけて」の笑顔がそのまま長崎の印象になった。

  そんなふうにして二泊三日をどうにか終え、帰りの新幹線に乗り込む。もう次の予定を確認する必要もない。ここに座っていれば間違いなく東京駅に到着するのだ。

  車窓を眺めながらシートに身を沈めた時、私は不思議な感覚に襲われた。もうしなければならないことは何もない。無事に旅を終えた。あとは自分が帰る場所へ車両の揺れに身を任せるだけ。安心感に包まれている。

  もしかして、これはベッドに身を横たえた人生の最終章の心境ではないだろうか。やるべき事は何とかやった。もう心配することはない。この先は自分の還る場所へ向かうだけ。最期にこのような心持ちになるのだとしたら何だか救われた思いもしてくる。

  旅の終わりに、高揚感や緊張感から解き放され、穏やかな心で車窓を眺める。これが私の一人旅の醍醐味である。

  新幹線は静かにホームへ滑り込んだ。


by cuckoo2006 | 2017-09-01 15:59 | エッセイ@文章教室 | Trackback | Comments(0)

エッセイ@文章教室はじめました♪ 「靴」

  


 私とリウマチは30年を越える長い付き合いだ。手足に多少の変形はあるものの毎日を元気に過ごしている。

それでも困る事がある。歩くと右足の裏が痛い。指の付け根あたりの骨が飛び出しているせいだ。そこに魚の目ができる。整形外科で、変形した足を出し魚の目を削ってもらうのは切ないものである。

けれども看護師さんは、

「痛くなる前にまた来てくださいね」

と、いつも優しく言ってくれる。

もう一つ困るのは靴選びである。飛び出した骨が当たるため、履いて痛くない靴が無いのだ。私の足のサイズは23.5cmだが、それより1大きい24.5cmの靴を買い、骨が当たる部分に樹脂製の敷物を入れる苦肉の策を取っている。これで痛みはかなり緩和される。

デパートの靴売り場では、外反母趾などに対応した歩きやすい靴のコーナーに直行する。そこで、これはという靴を選び、24.5㎝のサイズを頼む。

しかし店員さんは、

「お客様にそのサイズは大き過ぎます。合わないサイズの靴を履いていると腰を痛めます」       

頑として私の頼みを聞いてくれない。腰が痛くなる以前に一歩足を前に出すと痛いのだから話にならない。

「でも、その靴を履いて痛い思いをするのは私なんです」

職業意識の高いシューフィッターさんに捨て台詞を吐いたこともある。

そんな時、ふらりと日本橋三越本店に足を踏み入れた。オシャレ度の低い靴のコーナーも広々としている。座って履いてみるソファーもゆったりしている。望みのサイズも快く出してくれた。次々に履いて通路を歩いてみる。

すると、そのうちの一足が自分でもアレッと驚くほどフィットした。

「不思議です。痛くありません!」

私は思わず大きな声を出した。

「木型がお客様の足にピッタリ合っているのですね」

店員さんも喜んでくれた。

買って帰った日に、いつものように夫に靴の中にボンドで敷物を固定してもらった。リウマチの妻と30年以上一緒にいる夫。何かにつけ助けてもらい感謝している。

一日歩いても痛くならずデザインとも折り合えた靴は、大塚製靴のボン・ステップというシリーズ。クリーナーで良く磨いてやっている。

この靴を履いて、これからも元気に歩いて行きたいものである。


by cuckoo2006 | 2017-08-04 16:40 | エッセイ@文章教室 | Trackback | Comments(0)