小説、映画、絵手紙、都々逸
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カテゴリ:本(日本のもの)( 122 )

「澪木」朴重鎬[著]


 d0074962_15010304.jpg『「北」への帰国とは何だったのか。祖国・北朝鮮へ帰国した弟夫婦の惨憺たる生活、子どもたちを民族学校から日本の学校へ転校させる姉夫婦、そして「愛国組織」──。一人の女性の生に在日同胞の現代史を集約して描く力作長篇小説。』(帯より)




 読んでいて楽しくなる本ではありませんが、強く引き込まれました。時代は1950年代後半、主人公の明姫(ミョンヒ)は東京にある民族学校の教師。「愛国事業」に関わる編集者の夫、一歳の娘と暮らしています。朝鮮料理店を営む明姫の両親は濃密な愛情を子供達に注いでいます。

 

 明姫の日常生活を通して「愛国組織」への忠誠と同胞達との肉親のような絆が描写されます。日本という国に住みながら祖国・北朝鮮の一員としての強固な価値観を持つ人びと。彼等の内面を始めて知る思いでした。

 

 私達と懸け離れた世界にいる明姫ですが、妻、母、娘としての思いは当たり前過ぎるほど普遍的です。実家を助けることについての夫への遠慮、両親が自分を頼り切っていることへの気の滅入り、乳飲み子と保育園で別れる切なさなど身に覚えのある感情が沸き上がります。作者が男性であることが信じられないほど明姫の揺れ動く胸の内にリアリティがありました。


明姫は弟の面倒を見ながらも、おとなし過ぎる性格に不甲斐なさを感じています。その弟が、亡くなる前のオモニ(母親)の世話を買って出ます。病院の暗い小部屋で死を待つオモニ。弟の優しさが明姫の心を救います。強く印象に残る場面でした。


オモニの死後、父と弟は祖国への帰国を決めます。これが彼等にとって未来の開ける、正しい選択と信じ送り出す明姫。彼女は心に重りをつけたように苦しむことになります。


祖国での苛酷な生活は、弟家族からの手紙文ですべて表現されます。手紙は毎回、生活の苦しさを嘆き、時計、ミシン、靴などを送ってくれという訴えで占められます。弟家族の叶えられない願いは次第に怒りを含んだものに変わっていきます。


弟一家へ心配と同情を深めながらも、それらの手紙は明姫の心を彼等から遠ざけます。夫の看病のため教員を辞め北海道で暮らす明姫の生活も厳しいものでした。現実感にあふれた双方の心理描写に胸が塞がれます。

 

 物語の中には日本人がほんの僅かに登場します。明姫の近所の日本人主婦達は軸のない、ふわふわとしたお気楽な存在に描かれます。仲良くしていても明姫と彼女達の間には、はっきりと一線が引かれていることが感じられます。

 

 もう一人終盤に登場する、夫の子供の頃からの知り合いの「森田の小母さん」。彼女はお裾分けや心付けを申し訳なさそうにそっと置いておくような心根の優しい人。日本人読者としては彼女の存在に救われます。


日本で生きていく以外に道はない明姫夫婦は、娘達を民族学校から日本の公立小学校へ転校させることを決意します。民族学校の寄宿舎から娘達の荷物を夫婦が運び出すところで物語は終わります。


重く暗い題材ですが、「いじいじ考えてばかりいて何もしないでいるのは性に合わない」明姫の気質が物語を支えています。

 

 生まれ育った日本と祖国に引き裂かれながら人生を歩む主人公。その心の深淵に少しだけ触れる思いで本を閉じました。


by cuckoo2006 | 2017-12-01 18:15 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「蜜蜂と遠雷」恩田陸〔著〕

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私はまだ、音楽の神様に愛されているだろうか?ピアノコンクールを舞台に、人間の才能と運命、そして音楽を描き切った青春群像小説。著者渾身、文句なしの最高傑作!

内容(「BOOK」データベースより)


 

 一冊の本を読み終えた達成感を味わいました。これは久しぶりの感覚です。海に面した架空の地方都市「芳ヶ江」で行われる国際ピアノコンクール。その1次、2次、3次予選と本選の全てが記録されています。

 

 実は物語のあらすじを聞いて、なかなか読む気になれませんでした。音楽に素養のない自分には苦手分野の小説。おまけに2段組みの本は腕が痛くなるほどの重さです。それでも数ページ捲ると苦手意識はどこかへ飛んでいきました。

 

 ーー明るい野山を群れ飛ぶ無数の蜜蜂は、世界を祝福する音符であるーー

 ーー世界とは、いつもなんという至上の音楽に満たされていたことだろうーー

 

 光が降り注ぐような序章とともに、キャンパス地のカバンを肩から、たすき掛けにした『風間塵』が登場します。彼の魅力が、この物語の魅力でした。私の頭の中では、振り払っても振り払っても最後まで、『風間塵』の顔が、連勝記録を伸ばしていた棋士の藤井総太四段の顔でした。私のような読者、他にもいたのではないでしょうか。若き天才というものは茫洋として自然体なのかも知れません。


 類い稀な才能に並外れた情熱、『風間塵』はじめ主要な4名のコンテスタント達は、凡人の手の届かぬ所に立っています。そんな彼等一人一人の苦しみと不安が吐露されます。そして物語は、コンクールの審査員、取材記者、友人、家族と視点を移しながら進んでいきます。


 ピアノ曲、一曲一曲を表現する言葉の多彩さ、イメージの広がりに圧倒されました。時に文学的に時に感覚的に、音符が文字に変換されていくようです。聴いたことのない曲や作曲家が身近に感じられました。クラシックを聞くという趣味のない自分が退屈せずに読んでいることが不思議な気持です。


 一体この中の誰が優勝するのか、読み進むに連れ興味はそこへ集約されます。最後のページに、すべての順位が明らかにされます。並んだ名前の一人一人をねぎらいたい気持でした。ちょっとした仕掛けもあり後味がぐっと良くなります。

 

 本を閉じた時、2週間に渡るコンクールのすべてを観客席で見届けた思いでした。直木賞・本屋大賞ダブル受賞、納得の一冊です。



by cuckoo2006 | 2017-08-23 20:39 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「劇場」又吉直樹〔著〕


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《演劇を通して世界に立ち向かう永田と、その恋人の沙希。夢を抱いてやってきた東京で、ふたりは出会った―。『火花』より先に書き始めていた又吉直樹の作家としての原点にして、書かずにはいられなかった、たったひとつの不器用な恋。夢と現実のはざまにもがきながら、かけがえのない大切な誰かを想う、切なくも胸にせまる恋愛小説。》

内容(「BOOK」データベースより)


期待は裏切られません。読み終わって何とも哀しい気持になりました。若い男女の恋愛小説なのですが、そこには男と女の、人と人との解り合えない生身の感情が充満しています。心が大きく動かされました。


物語は、主人公・永田が八月の午後、新宿から渋谷の人混みを朦朧と歩く描写から始まります。身体と心がバラバラのまま、自らの五感を実況中継していくような息苦しさ。壊れかかっている永田自身の感覚が皮膚を通して伝わってきます。


沙希との出逢いや会話のいくつかなどは既に又吉さんのエッセイで読んだことのあるエピソードでした。実体験の強みは伝わりますが、やはり新鮮さは薄れます。小説の中で最初に読みたかったと思いました。


沙希と暮らし始め、永田はギリギリのところで自分を取り戻します。けれども、次第に永田は沙希に依存していきます。又吉さんそのもののような永田という人間の、はらわたを晒すような独白が続きます。嫉妬とプライドの卑小さ、卑小さを隠そうとする傲慢さ。あまりの赤裸々さが快感なほどです。


私は女なので、こういう場面で男とはこんなふうに考えているのかと、目から鱗の部分もありました。


新聞の書評に「女性の描き方に現実感がない」という趣旨の意見がありましたが、私は沙希の感覚、行動に共感しました。沙希と同じような想いをした若い日の自分にも逢えました。限界を越えてしまった沙希の変わりぶりも真実でしょう。そして彼女の選んだ道は正しいものと信じます。


最初が素晴らしいと言いましたが、終わり方も成功しています。 
の最後には大きな違和感がありましたが、この本の結末は沁みます。泣けます。悲しさ、切なさ一杯に本を閉じました。



by cuckoo2006 | 2017-06-30 18:24 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「みかづき」森絵都〔著〕

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内容紹介

【祝】2017年本屋大賞第2位!!
【祝】王様のブランチ ブックアワード2016大賞受賞!!

「私、学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思うんです」
昭和36年。人生を教えることに捧げた、塾教師たちの物語が始まる。
胸を打つ確かな感動。著者5年ぶり、渾身の大長編。

小学校用務員の大島吾郎は、勉強を教えていた児童の母親、赤坂千明に誘われ、ともに学習塾を立ち上げる。
女手ひとつで娘を育てる千明と結婚し、家族になった吾郎。ベビーブームと経済成長を背景に、
塾も順調に成長してゆくが、予期せぬ波瀾がふたりを襲い――。

阿川佐和子氏「唸る。目を閉じる。そういえば、あの時代の日本人は、本当に一途だった」
北上次郎氏「圧倒された。この小説にはすべてがある」(「青春と読書」2016年9月号より)
中江有里氏「月の光に浮かび上がる理想と現実。真の教育を巡る人間模様に魅せられた」


 2017年本屋大賞2位作品。既に直木賞を受賞している恩田陸さんの「蜂蜜と遠雷」が、この本を押さえて史上初のダブル受賞を果たしました。本の売り上げを考えれば、大きな二つの賞は別々の作品にした方が絶対良いと思いますが、何故「蜂蜜と遠雷」が二冠を制したのかを皮肉にも納得してしまいました。


 学習塾を舞台にした親子三代に渡る壮大な物語は、時が進むに連れ余りにもイイ話になってしまいます。白けました。


 昭和36年、小学校の用務員の吾郎は、用務員室に集まる授業について行けない子供達に勉強を教えていました。吾郎の指導方法は評判になり、やがてパートナーとなる児童の母親の千明と小さな補習塾を始めます。昭和30年代に小学生だった私は長女の蕗子と同い年。夕暮れ時にそろばん塾へ向かった街の光景が蘇りました。


 塾は実のない教育界の徒花と煽る世間の風と戦いながら、理想の授業を開拓するこの辺りまでの描写は生き生きとしています。登場人物の吾郎、千晶、蕗子くらいまではそれぞれの表情が浮かんでくるのですが、その後に生まれた妹二人、孫に至ってはステレオタイプ。塾創世記の昭和の時代に深みがあるので、読み進むごとに予定調和の世界を感じてしまいます。後半の浅さ薄さで読後感は大損してます。


 森絵都さんの

で感じたピリッとした何かが足りませんでした。「蜂蜜と遠雷」が二冠に輝いたということは私のようなヒネクレ者が少なからず居たということかも知れません。とは言うものの「蜂蜜と遠雷」は未読。偉そうなことを言った手前これから読んでみることにします。


by cuckoo2006 | 2017-05-24 14:03 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「阿蘭陀西鶴」朝井まかて〔著〕

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内容紹介

江戸前期を代表する作家・井原西鶴。彼の娘おあいは、盲目の身ながら、亡き母の代わりに料理も裁縫もこなす。一方、西鶴は、手前勝手でええ格好しぃで自慢たれ。傍迷惑な父親と思っていたおあいだったが、『好色一代男』の朗読を聴いて、父への想いが変わり始める。小説を読む歓びに満ちた、織田作之助受賞作。

 

 また一人、相性の良い作家と出会えました。「朝井まかて」さんです。


 物語の語り手は、井原西鶴の盲目の娘おあい。若くして亡くなった母に家事の一通りを仕込まれたおあいは父の身の回りの世話に追われていました。


 大阪の俳壇の主流から外れ、思うような評価を得られない西鶴は自ら異端を意味する阿蘭陀西鶴を名乗ります。一晩に数千句を独吟する興業を打つなど派手な自己演出ばかりする西鶴が唯一神経を尖らせる存在が、江戸の松尾芭蕉でした。


 西鶴は今まで誰も読んだことのない物語を書くため、おあいを伴い旅に出ます。この旅で、おあいは、為すことすべてが大仰ではた迷惑と思っていた父の別の面に触れます。父に対するおあいの気持ちが変化していくので読者の西鶴に対する印象も徐々に変わっていきます。やがて後生に残る「好色一代男」が完成します。


 私が深く印象に残ったのは、女中のお玉が、嫁ぐこともなく父の傍らで生きたおあいに別れ際に告げる言葉。「旦那さんは嬢さんを便利に使って酷なことしはるって思うてたけど、今日、そんな捉えようは見当違いいなんて思うた。こないな生きようもあるんやなんて」。この時、お玉とおあいの間を隔てていたものが少しだけ動き風が通ります。世間や自分の尺度で人の生き方を同情したり批判したりするのは独りよがりの的外れ、と教えられます。


 “世之介”のモデルのような親の身代をつぶした若旦那の末路や捨て子だった歌舞伎役者の最期もそれぞれが自分の人生を生きたのでしょう。西鶴の人間を捉える目を感じます。


 おあいが道に迷いしゃがみ込んだ時、幼い頃里子に出された弟の「ねえちゃんじゃないか」の声が聞こえます。「自分のせいで申し訳ない」と何度も弟に詫びるおあい。抑制の効いた性格のおあいの哀しさが募りました。


 巻末の解説に、井原西鶴は日本初のエンタメ作家とあります。盲目の娘がいたのも事実のようです。芭蕉に嫉妬し、近松門左衛門を「律儀なやっちゃ」と感心する西鶴がぐっと身近に感じられた一冊です。


by cuckoo2006 | 2017-02-22 21:08 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「サラバ!」西加奈子〔著〕

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内容(「BOOK」データベースより)

1977年5月、圷歩は、イランで生まれた。父の海外赴任先だ。チャーミングな母、変わり者の姉も一緒だった。イラン革命のあと、しばらく大阪に住んだ彼は小学生になり、今度はエジプトへ向かう。後の人生に大きな影響を与える、ある出来事が待ち受けている事も知らずに―。


 一昨年、直木賞を受賞した「サラバ!」をようやく読了。本の続きが読みたくて読みたくて、早めに寝床へ向かいました。

 

 物語の語り手は、圷歩(あくつあゆむ)。1977年5月、歩は父の赴任先のイランで産声を上げます。優しい父と美人で奔放な母、そして4歳違いの姉・貴子。貴子は幼い頃から並外れた変わり者で、成長するにつれ母との対立を深めます。それでもイランでの生活は家族の一番幸福な時代でした。

 

 上巻では、海外の現地駐在員家族の生活が臨場感いっぱいに描かれます。現地の貧しい子供達への感情、数年後には日本に帰ることが前提の日本人学校の子供社会等が生き生きと描かれ、子供の目を通したルポルタージュを読んでいるようでした。

 

 第二の赴任地のエジプトで、歩は言葉の通じない親友ヤコブを得ます。両親の不穏の空気に、歩は家庭内で気配を消すことで自分を守っていました。ヤコブと居る時だけその不安を忘れることが出来たのです。

 

 どこへ行っても安定した人間関係を築くことが出来ない姉に対して、容姿にも恵まれた歩は魅力ある存在として人生を歩んでいきます。しかし、大学を卒業した数年後、盤石な安定感を保っていた歩の外見に陰りが見え始めます。生まれた時から無条件に受けてきた好意を失った歩は大きく変わってしまいます。

 

 下巻は、ここから歩の迷走が主題となります。学生時代の放蕩も歩の容姿があってこそなので、その衰えには同情できません。それでも、大人になるずっと前から大人でいなければならなかった歩の苦しさは察しられました。

 

 人生は、持って生まれたものやその恩恵だけでは越えられない地点がやがて来ます。歩とは反対に、もがき苦しんできた姉にはしっかりとした軸が出来ていたのです。「自分だけが信じられるものが歩にはない。だから揺れてばかりいる。」貴子は弟に語りかけます。不器用に傷つきながら生きて来た貴子と、小器用にスマートにきた歩。姉と歩の人生が逆転する瞬間は、恐いくらい現実をすくい取っています。

 

 若い父と母に何があったのか、その事によって家族に何が起ったのか、歩は遂に知ります。絶え間のない嵐の中にいたような家族一人一人の苦しさが浮かび上がります。自分が信じるものを見つけ出す旅に出る歩。ナイル河を臨みながら再会したヤコブと語り合う場面は、涙が出ました。37歳になった歩は、自分が、「自分」を捕まえる一歩一歩を踏みしめます。

 

 生涯最良の一冊と言える面白さでした。


by cuckoo2006 | 2017-01-26 15:15 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「羊と鋼の森」宮下奈都〔著〕

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内容(「Book」データベースより)

ゆるされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。ピアノの調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。


 全体を流れるトーンは、私の好きな小川洋子作品
を思い起こす静謐さです。

 森に囲まれた山間の集落で生まれ育った外村(とむら)は高校生の時、体育館のピアノの調律に偶然立ち会う。蓋を開けたグランドピアノの鍵盤を調律師が叩くと、森の匂いがしました。

 この出会いにより何かに導かれるように、外村は調律師になる道を歩み出します。調律という森に足を踏み入れてしまった外村は、もがきながらも一歩一歩前に進んで行く。そこは迷い込んだら帰れない鬱蒼と茂った暗い森のようでした。

 音を描写する繊細な言葉に引き込まれます。ピアノの中にあるハンマーが羊の毛で作られたフェルトであること。いい草を食べて育ったいい羊の毛を使ったフェルトがいい音を出すこと。ピアノの木はスプルースという松の木の一種であること。音から景色が浮かんでくること。外村と一緒に感覚が研ぎ澄まされていくようです。

 それと物語のもう一つの魅力は、外村が暗中模索する姿に共感できるところ。調律師という馴染みの少ない職種が描かれますが、外村の苦しみはどんな仕事にも共通するように思えます。実は自分には不向きなのではないか、自分が一人前になる姿が皆目想像出来ない、何をどうすればいいのかさえ解らない、、熱意はたやすく不安や葛藤に押しつぶされます。

本の中には、たくさんの会話があります。
「焦ってはいけない。こつこつ、こつこつです」
「どういうふうにこつこつするのが正しいのでしょう」
「こつこつと迷って、こつこつとヒット・エンド・ランです」
「ホームランはないんですね」
「ホームランを狙ってはだめなんです」

 その他にも、
「料理人が一度の味見で決めるように調律師も一度で音を決められなかったら迷い続けることになる」
「どんなことでも1万時間かければ形になる。悩むならその後にしろ」1万時間はだいたい5、6年ということらしい。
「才能っていうのは、どんなことがあっても、そこから離れられない執念や闘志みたいなもの」

 私も先輩達の言葉に励まされました。
 
 外村は少年の頃、森をあてもなく歩いている時にだけ自分はゆるされている、世界と調和していると感じることができた。彼はそれをピアノの中に見つけます。自分を包んでいたあの森をピアノで再現できる日まで外村は努力を続けるのでしょう。
 
 芥川賞は、コンビニ人間」
に破れましたが、2016年本屋大賞受賞作品。地道に頑張れば何とかなる!それしかないのだ!若い人をたくさん励ました本に違いありません。


by cuckoo2006 | 2016-10-26 21:15 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「コンビニ人間」村田沙耶香〔著〕

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 内容(「BOOK」データベースより)

36歳未婚女性、古倉恵子。大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。これまで彼氏なし。日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしいと突きつけられるが…。「普通」とは何か?現代の実存を軽やかに問う衝撃作。第155回芥川賞受賞。  


 やはり芥川賞、独自の世界観が展開されます。それでいて読みやすく面白く一日で読了。著者ご本人が主人公と同じコンビニ勤務ということでも話題になりましたね。


 子供の頃から普通の世界の感覚と懸け離れ、両親を心配させてきた恵子は、大人になっても‟異物”としての自分のままでした。その彼女が開店準備中のコンビニエンスストアと運命的に出会う。恵子はコンビニエンスストアの店員という架空の生き物を演じることにより普通の人間という架空の生き物を演じるようになります。


 コンビニに満ち溢れる音の描写から始まる、清潔で秩序だった世界がレジの向こう側から描かれます。新鮮で心地良く感じました。ここで働いている時間だけ恵子は世界の正常な部品になることができるのでした。


 不審がられるのは面倒臭いから周囲を観察して普通に溶け込もうとする恵子。恵子に伊坂幸太郎の「死神の精度」の千葉が浮かびました。死神・千葉も痛みも疲れも感じませんが、痛いふり恐いふりをして任務に当たる。人間ってやっかいだなあ、と思いながら。恵子も死神・千葉も、こちら側の人間から見ると、羨ましいほどあっけらかんとしています。そして、全くあっけらかんとしていない同僚・白羽と出会った恵子の人生は思わぬ方向へ動き出します。


 普通と思ってやっていることだって考えてみれば、その場ではそうしておいた方が良いとされているから、あるいは皆がそうやっているから流れに合わせているに過ぎない。ホントに普通って何だろうと思えてきます。


 恵子の念願だった、あちら側からこちら側の人間になりかかった彼女に見えた景色は・・・恵子の心と体が下した最後の決断に胸がスカッとしました!



by cuckoo2006 | 2016-08-26 20:44 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(2)

「つまをめとらば」青山文平〔著〕

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内容紹介

女が映し出す男の無様、そして、真価――。

太平の世に行き場を失い、人生に惑う武家の男たち。

身ひとつで生きる女ならば、答えを知っていようか――。

時代小説の新旗手が贈る傑作武家小説集。

「ひともうらやむ」「つゆかせぎ」「乳付」「ひと夏」「逢対」「つまをめとらば」

男の心に巣食う弱さを包み込む、滋味あふれる物語、六篇を収録。


 六篇から成る短編集。

タイトルの「つまをめとらば」は、2015年下半期の直木賞受賞作品。上半期は、ご存じ芥川賞・又吉直樹の「火花」の回でした。


 淡々とした出だしの時代小説はずいぶん地味に感じられ、‟火花フィーバー”の後の控えめな登場も、この本の持ち味になるほど。静かな存在感が残りました。


 どの主人公も押しが弱く気が優しく、平穏と分相応を第一に生きています。野心や出世とは無縁なのですが、自分の中に譲れないものもある。イイ人揃いの主人公達を気持ち良く読みました。


 一篇目は「ひともうらやむ」。庄平は藩主を間近で守る番氏。庄平の幼馴染・克己が射止めた世津は、ただ美しいのではなく、男という生き物のいちばん柔らかい部分をえぐり出して、ざらりと触ってくるほどに美しい娘だった。庄平が嫁に迎えた康江の顔かたちは世津に及ぶべくもないと感じていたが、共に暮らすうちにいつしか庄平は康江と世津を比べなくなっていた。その後、それぞれの夫婦に起こる思ってもいなかった出来事・・・男達が決して口にはしない胸中に引き込まれます。


 二篇目は、妻を失った俳諧師が宿場女の逞しさに自らの詩材の狭さを思い知る「つゆかせぎ」。三篇目は、唯一女性が主人公の「乳付」。続いての「ひと夏」、「逢対」は少々甘くいい話になり過ぎたように感じましたが、最後の「つまをめとらば」は秀逸です。


 幼馴染の省吾と貞次郎が再会する。二人とも今は奉行のお役目を引退した独り身。ひょんなことから男二人が親しく暮らす中、それぞれに歩んできた道に関わり合った女達を振り返る。ーーふつうの女など、いない。ふつうを求めているとすれば、それは危ういーー三人の妻に翻弄された省吾の言葉には真実があります。そんな二人の前に、過去に彼等の心を深くとらえた佐世が現れる。佐世は以前とはすっかり変わった姿でした。佐世と言葉を交わしたことを切っ掛けに彼等はそれぞれの今後の人生に心を定めます。


 「やっぱり、省ちゃんは餓鬼大将で、俺は使いっ走りだ」

 んなことは、ない。

 ぜんぜんない。


 こんな終わり方もとても良かった。


 曲げることの出来ない自分の中の小さな正義。それが人の心に平安をもたらすのだとそれぞれの主人公に感じました。共感しました。


 「つまをめとらば」は1時間ちょっとで読めます。あっさりしていて恐くて深い。なつやすみにお時間があれば是非!




by cuckoo2006 | 2016-07-30 15:28 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(2)

「64 ロクヨン」上・下横山秀夫〔著〕

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内容(「BOOK」データベースより)

警察職員二十六万人、それぞれに持ち場があります。刑事など一握り。大半は光の当たらない縁の下の仕事です。神の手は持っていない。それでも誇りは持っている。一人ひとりが日々矜持をもって職務を果たさねば、こんなにも巨大な組織が回っていくはずがない。D県警は最大の危機に瀕する警察小説の真髄が、人生の本質が、ここにある。


  小説を読んで、久しぶりに血湧き肉躍る感覚を味わいました!


 「踊る大捜査線」を見て警察官に憧れた人はたくさんいると思いますが、この本を読んで警察官になりたいと思う人はまずいないでしょう。それくらい縦社会、男社会の閉塞感が充満しています。ここに居たいとは到底思えませんでした。


 昭和64年に起こった未解決の幼女誘拐殺人事件、通称ロクヨン事件から14年後の平成14年が舞台となります。

 物語には様々な対立の構図が描かれます。刑事部と警務部の対立など刑事ドラマにはまず出て来ない話。内部人事の実情に興味を引かれました。主人公は刑事部から警務部に異動になったばかりの三上広報官。彼の率いる県警広報と新聞記者達は激しくぶつかり合いながら水面下での駆け引きを繰り広げます。様々な人々の複雑に絡まり合った人間関係は色濃く、奥底をのぞき込むような心理描写に息苦しささえ感じました。

 そして、三上と妻の美那子は、3か月前から行方不明の高校生の娘あゆみの無事を祈り続けていました。

 そんな折、未解決事件の情報を求めるため警視庁長官が視察にやって来ます。被害者家族への弔問の交渉や新聞記者との攻防の中、三上はロクヨン事件には警察内部に隠蔽されている新事実があることに気づきます。やがて新たな事件が起こり、それに伴いロクヨン事件も一気に動き出します・・・・

 物語が重苦しかった分、最後は爽やかな風が吹き抜けます。そこはやはり横山秀夫でした。

 三上の妻が呟きます。「あゆみはきっとどこかにいる。ありのままのあゆみを受け入れて見守ってくれる誰かと。そこがあゆみの居場所。ここではなく、そこでならあゆみはのびのびと生きていける」と。

 私も本当にそんな気がしてきて分厚い本を読み終えました。




by cuckoo2006 | 2016-06-26 16:48 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)