小説、映画、絵手紙、都々逸
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「月と蟹」 道尾秀介[著]

月と蟹」 
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内容(「BOOK」データベースより)
「ヤドカミ様に、お願いしてみようか」「叶えてくれると思うで。何でも」やり場のない心を抱えた子供たちが始めた、ヤドカリを神様に見立てるささやかな儀式。やがてねじれた祈りは大人たちに、そして少年たち自身に、不穏なハサミを振り上げる―やさしくも哀しい祈りが胸を衝く、俊英の最新長篇小説。



 これは自信を持ってお薦めしたい本!
小学5年生の慎一は、2年前に東京から鎌倉の祖父の家へ越してきました。1年前に父が病死し、今は、事故で足が不自由になった祖父と母の三人暮らし。やはり関西から転校して来た春也とはクラスに馴染めない同士、気が合っていました。

 夏休み前の放課後、慎一と春也が岩場の陰に作った秘密の場所や、慎一の祖父に連れられ鶴岡八幡宮へ舞いを見に行く二人の寄り道の冒険など、生き生きと描かれます。風の匂いや草いきれ、そして子供達の汗や体温を感じるような描写に、やっぱり芥川賞作品(芥川賞ではなく直木賞でした)は上手いなあ、と納得します。けれどもここまでは、見事なお手並みを感心すると同時に、上質な作品独特の退屈さ、も感じてました。それに、生物への虐待、また子供への虐待を思わせるシーンもあり、あんまり愉快な話とは言えません。

 中盤から、クラスの太陽のような存在の少女・鳴海が二人の秘密の儀式の遊びに加わるようになります。この辺りから三人それぞれの心理描写に、ぐんぐん引き込まれていきます。慎一の祖父が起こした10年前の漁船の事故で、鳴海は母を亡くしていました。慎一と距離を置くクラスメートの中で、鳴海だけが彼と仲良く接しています。そんなある日、慎一は、自分の母親が鳴海の父親と密かに逢っているところを目撃してしまいます。そして、慎一の教室の机の中には、また彼を中傷する手紙が入れられていました・・・・

 後半からはもう、上手いなあ!と唸っている暇もなく、夢中で先へ先へとページを捲ります。前半までは予想される通りの筋立てでしたが、終盤は全くの予測不能。嬉しい予測不能です。鳴海が、「あの人、なんか恐くない?」と言うように最初は春也に“危うさ”を感じましたが、後半は慎一の方が“狂気”に駆られます。慎一のなかで幻想と現実が交差する最後の数十ページは、姿勢を変えるのも忘れて読み切りました。5年生の2学期、三人はそれぞれが、明るい方へ小さな一歩踏み出します。頭の中のスクリーンで、一本の映画を観たような小説でした。
by cuckoo2006 | 2011-04-20 22:06 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)
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