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「ユリゴコロ」沼田まほかる[著]
内容紹介
亮介が実家で偶然見つけた「ユリゴコロ」と名付けられたノート。それは殺人に取り憑かれた人間の生々しい告白文だった。創作なのか、あるいは事実に基づく手記なのか。そして書いたのは誰なのか。謎のノートは亮介の人生を一変させる驚愕の事実を孕んでいた。圧倒的な筆力に身も心も絡めとられてしまう究極の恋愛ミステリー! 久々の“一気本”と思いましたが、終ってみれば★3つでした。 亮介は、実家の押し入れの奥で4冊のノートを見つける。そこには物心ついてから「私」を取り囲む世界が詳細に綴られてあった。 それは、まわりのもの全部が正体不明の敵意を含みチリチリギラギラしているような感覚。心の半分が気を失っているような感覚だった。そして「私」は、身に纏わりつくその嫌なものが、“或る行為”により鎮まり、世界が清潔な本来の姿に戻っていくことに気づくのだった、、、 手記の書き手は父なのか、亡くなった母なのか。亮介が読み進む手記の世界と、彼の現実の行動が交互に描かれます。 謎めいた手記の世界に対して、亮介の現実の世界は明るく軽妙なタッチ。しかし亮介の実生活でも幾つかの問題が起っています。また彼は幼い頃、突然母が別の人と入れ替わった不可解な記憶を持っていました。 登場人物の心の動きが丹念に描写されます。これが一番の魅力でした。たとえば、「私」が生まれて初めて体験する“楽しい”という気持ちをーー心が丸く膨らんで、弾んで、気球みたいに飛び立ちそうな感覚のなかに、膨らみすぎてはじけてしまうのではないかという不安も少し混じっているーーと表現します。深い闇の中の「私」の静かな狂気の描写にも引き込まれました。 けれども、物語の軸の部分は、かなりのご都合主義。“細谷さん”の正体を途中から読者に気づかせるのは計画通りでしょう。それでも“二人”のうちの、“あちらの人物”だったというのは考えられない。“もう片方の人物”だったならば何とか納得できたのですが。 そんなわけで、これもあり得ん、あれもあり得ん、というのが一番の読後感になってしまいました。それに目を瞑れば、面白く読めるという点では文句なしでしょう。
by cuckoo2006
| 2014-06-06 17:31
| 本(日本のもの)
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