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「わが職業は死」 P.D.ジェイムズ〔著〕
イギリスの女性ミステリー作家、P.D.ジェイムズの「ダルグリッシュ警視シリーズ」の一冊。
『犯罪の科学捜査を行なうホガッツ研究所で深夜、所長代理のロリマーが殺される。冷徹で高慢な被害者は、所内の誰からも反感を買っていた・・・多すぎる動機、密室の謎、ダルグリッシュ警視長は周到な尋問と鋭い推理で、犯罪エキスパートたちの間に生じた殺人事件の複雑な糸を解きほぐしていく。』 外国のミステリを読む時、毎回最初の50ページくらいまでは、ひどく取っ付きが悪い。 登場人物がやたら多い。名前が長たらしくて紛らわしい。一人の人物もファミリーネームとファーストネームが入り混じり、会話は愛称で呼び合ったりする。 もう何回となく表紙の裏の「登場人物一覧表」を確認しながら読んでいく。それが面倒臭いのだ。 おまけに私は、飲み込みの遅いことと言ったら誰にも負けない自信を持っている。 そんな具合にページを捲っては戻りの苦労の末に、ようやく登場人物の人間関係がカチッと頭に収まる。 ここからはもうエンジンは快調、すーっと読めていく。これが「快感」なのですねえ。 それにしても、この「わが職業は死」、分厚い文庫本なのだが、最後の50ページ程まで犯人の見当がつかなかった。「現代ミステリ界の女王の放つ本格傑作」と銘打っているだけのことはある。流石だなあ。 誰もが動機を持つ複雑な人間関係・・読者に犯人を予想させず、矛盾も感じさせずに事件を解明していくにはやはりこれだけの入り組んだ登場人物が必要だったのだと思う。 ところで、私はどうもミステリは「女性作家」と相性が良いようだ。 人の心の奥底までのきめ細やかな描写、それからインテリア、料理、ファッションなどを描いていく繊細なタッチがとても心地良い。 例えば、今回の殺人事件の被害者・ロリマーの自室の様子を一ページに渡って丹念に描写していくところがある。 こざっぱりとしていかにも安らぎの感じられる部屋、家具や小物類一つ一つの説明、古めかしい書物机に毛布が掛けられたシングルベッド、読書用のスタンドにラジオ、水差し、時計、マグカップ・・・とそれぞれの質感、触感まで伝わってくるようだった。 『すべてが機能本位であり、装飾を排して充分に使い込んであった。いかにも寛げる部屋だ』と結んである。 周りの人間達に「殺されて当然」と思われたロリマーの「内向」や「孤独」が浮かび上がって来た。 こういう女性作家ならではの感覚、とてもしっくりくる。 P.D.ジェイムズ作品には、ダルグリッシュ警視の他に「コーデリア・グレイ」という人気ヒロインもいる。彼女は22歳の私立探偵、こちらも好きな主人公です。
by cuckoo2006
| 2006-07-17 11:31
| 海外ミステリー
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Comments(2)
章子さんの映画評を読み私も本日「ゆれる」を見てきました。
弟が兄へむかって「家へ帰ろうよ」と叫ぶ最後のシーンは実際の自宅へ帰ろうよと言っているのではなく、幼い頃のあのふたりのきずなへ帰ろうよと叫んでいるのでしょう。弟が叫びながら向こう側からの道路を渡るとき、車にひかれそれでジ・エンドになるのかと私は思いました。 つり橋でちえこが兄の手を振り払うところは、理性が役に立たない瞬間の女の生理と心理が実によくでていて女性監督ならではと感じました。もうひとつ、ちえこの母が娘の死に関して思ったよりはあっさりしていたのは、現在の再婚しての生活が多忙で、同じところにはいつまでも足踏みしていられない女のあきらめと開き直りも感じました。 さて最後はどうなるのでしょうか。私は兄は家には帰らないと思いますが。
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cuckoo2006 at 2006-07-22 13:53
正子さん、「ゆれる」観てらっしゃいましたか。嬉しいなあ!
最後の「家へ帰ろうよ」と弟が兄に叫ぶあのシーン、私も「ふたりのきずな」を取り戻そうとしていると感じました。 そして、その「きずな」が、今までゆれ動いて来た主人公達の「心」と対比された「揺るぎないもの」に思えました。 観る前に読んだ夕刊の紹介記事に西川監督(30代)のインタビューが載っていました。『登場人物のどろどろした心理は全部自分から削りだしたもの、だから本当は女性を主人公(この映画だったら兄弟でなく姉妹)にしたいのだけど、そうするとあまりに息苦しいので、いつも男性に置き換えて描いている』、という話をしていました。(要旨のみ、記憶で書きました) あのつり橋での兄とちえこのやり取りも本当に上手かったですよね。兄にもちえこにも両方にすっと感情移入できました。 それにしても、このところ邦画が良く頑張ってい嬉しいです。 感想ありがとうございました! AKIKO
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