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「草原の椅子」上・下 宮本輝〔著〕

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『五十歳になり、さらに満たされぬ人生への思いを募らせる憲太郎と、大不況に悪戦苦闘する経営者・富樫。人の使命とは? 答えを求めるふたりが始めた人生という鮮やかな大冒険。』



宮本輝は、やはりベストセラー作家だ。
軽快に場面を展開し、読者を疲れさせず飽きさせず、長編小説を苦もなく最後まで読ませる腕は大したもの。

登場人物は、技術系サラリーマン遠間憲太郎と叩上げの経営者富樫、
人生の転換期を向え、それぞれに抱く閉塞感、ミドルエイジクライシス真っ只中の50歳の二人は、仕事を通して知り合い親友となる。

長年連れ添った妻と2年前に別れた憲太郎、一方、富樫は愛人と手が切れたばかり、
不思議に気が合うこの二人が、大阪の居酒屋で、故郷尾道へ向かう車の中で、夜の長電話で、愚痴と冗談まじりに人生を、この国を、語り合う。
その本音の一言一言に思わず耳を傾けた。日本人が見失った生きる姿勢に心根の持ち方・・どないなっとるんや、というボヤキに妙な説得力があった。

そして、子供の頃、父親が何かにつけて言ってくれた言葉、「考えあぐねたら寝ちまえ」に始まり、
チェーホフの手紙の文章「人生をむずかしく考えてはいけませんー」からナンシー・ウッドの「今日は死ぬのにもってこいの日だー」まで所々にポンポンと置かれた引用文にも立ち止まった。

やがて、彼らは何かを見つけ出すためにシルクロードのタクラマカン砂漠、そして遥かな高地にあるフンザへと出発する・・・そこで、憲太郎がする一つの決意・・・

宮本輝の小説に悪人が出てくることはまずないのだが、この物語も善意の人々で溢れ返っている。でも、登場する動物から子供まで何とも生き生きと健気なので、現実離れも心地良く読めてしまう。

胸に書き留めておきたいキラリとした言葉を幾つも見つけた。
例えば、あとがきで「おとな」をこんなふうに定義する―

「幾多の経験を積み、人を許すことができ、言ってはならないことは口にせず、人間の振舞を知悉していて、品性とユーモアと忍耐力を持つ偉大な楽天家でもある」
最後の「偉大な楽天家」がとてもいい。一番難しいことだと思う。

作者は、阪神淡路大震災で家を喪った後、半年間シルクロードを旅する。本書は、帰国後、1997年12月から1年間毎日新聞に連載された。

前回読んだ「神の子どもたちはみな踊る」の村上春樹も神戸出身。偶然にも村上氏と宮本氏の大地震のあとに書かれた作品を続けて読むことになった。

どちらも私のイメージの中で、他の多くの作品よりも明るく突き抜けた印象。
世の中を真っ直ぐに捉えた二人の作家の真摯な目にちょっとばかり感動もしました。
by cuckoo2006 | 2006-09-15 08:44 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)
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