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「父親たちの星条旗」 ジェームズ・ブラッドリー/ロン・パワーズ〔著〕

d0074962_15321997.jpg 朝日新聞の夕刊に月一度、沢木耕太郎が映画評を連載しています。
その「銀の森へ」で今月取り上げられたのが、「父親たちの星条旗」。

第二次世界大戦中、日米がもっとも激しい死闘をくりひろげた島、硫黄島。この山頂に掲揚された一枚の星条旗の写真、これがある種の「ヤラセ」であり、偶然にもその星条旗を揚げる役割を担ってしまった若い兵士たちの苦悩の物語、というあらすじを読みこれは見逃せない作品だと思いました。

映画は三つの時代を激しく行き来しながら進み、演じるのは日本の観客に馴染みのない俳優達と記事にあり、これは先に原作を読んでおこうと決めました。外人さんは勿論、最近ではジャニーズもみんな同じ顔に見える私です。

ところで、また老父の話で恐縮ですが、「お父さんは、捕虜になったから生きて帰って来られた。兵隊に取られていたら上等兵にイビリ殺されていたよ。何しろ坊ちゃん育ちの軟派だから」などという話を聞いたことがあります。
それはともかくとして、この「父親たちの星条旗」は、命を懸けた海兵隊員の熱い友情が描かれています。友情と国家への忠誠、上の者と下の者は、共に生きて帰ろうと助け合います。
「生きるとか、死ぬとか、戦うとかの問題ではなかった。それは、友達を助けるかどうかの問題だった」ある兵士の証言です。

そして、物語の核心である星条旗を掲げた六人の若者達、その生い立ちや入隊に至る経緯が説明され、一人一人の横顔を浮かび上がらせていきます。
六人が明るく健康で、まだ幼さも残る青年だったこと、家族と友人を愛し、なにより「祖国のために」と行動する若者達だったこと、それが悲しく伝わって来ます。彼らの幼年期からの写真も掲載され、このどこにでもいるような若者達の家族写真に見入ってしまいました。
そして志願や徴兵により入隊する際、泥まみれになる陸軍歩兵よりも海軍、そして危険のより少ない衛生官を薦める親など実感があり大いに共感します。

ある種の「ヤラセ」と言われた星条旗を揚げる写真が取られる経緯も良く分かりました。そして生き残った者達は世の中の大きな流れに翻弄され傷ついていきます。
負傷しながらも生還した三人それぞれの長く苦しい人生、一人は酒に溺れ、一人は有名になったことを利用しようとし、そしてもう一人は一切の記憶に重く蓋をします。

これは、その三人のうちですべての取材を拒否することを選んだ男性の息子によって、父親の死後、書かれた物語です。遂に立ち直ることの出来なかった、最後まで花を咲かすことのなかった残りの二人に対比して、父親である衛生下士官の偉大さが引き立っています。もちろん類まれな強さ優しさを持った人格者だったのでしょう。

極限の体験をした人間が、心を保って生きていくことの難しさを深く感じました。いじめにより自尊心や命まで奪われる思いをした子供達が生きていくのも同じように困難なことに思えます。
星条旗を揚げた若者のうち、唯一幸福な人生を送ったと言われた著者の父親も辛い生涯であったと感じました。

「銀の森へ」の最後に、沢木耕太郎は、こう書きますー
映画の表のメッセージは、「祖国のために戦った若者たちは戦友のために死んだ」もうひとつのメッセージは、「戦争を美しく語る者を信用するな、彼らは決まって戦場にいなかった者なのだから」ー

来月には、日本側からの戦いを描いた「硫黄島からの手紙」が上映されるそうです。本書にも度々登場する栗林中将、硫黄島における日本軍の奇襲を指揮した総司令官を松平健が演じるそうです。
その前にまず「父親たちの星条旗」、兵士達のキャラクターを頭に叩き込んだので、やっと安心して映画を見に行けます。
by cuckoo2006 | 2006-11-26 18:54 | 本(外国のもの) | Trackback | Comments(0)
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