小説、映画、絵手紙、都々逸
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カテゴリ:本(日本のもの)( 128 )

「大家さんと僕」矢部太郎[著]

 
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内容紹介

1階には大家のおばあさん、2階にはトホホな芸人の僕。挨拶は「ごきげんよう」、好きなタイプはマッカーサー元帥(渋い!)、牛丼もハンバーガーも食べたことがなく、僕を俳優と勘違いしている……。一緒に旅行するほど仲良くなった大家さんとの“二人暮らし”がずっと続けばいい、そう思っていた――。泣き笑い、奇跡の実話漫画。
 
 現在50万部突破、手塚治虫文化賞受賞の「大家さんと僕」。 
 漫画だしなぁ・・ほのぼの系だしなぁ・・と醒めた目でいたのですが、テレビでもブログでも読んだ人が口を揃えて大絶賛。正直、この本のどこがそれほど良いのか、という興味もあって読み始めました。

 ゆっくり読んでも1時間。この本がみんなに愛される理由が良く分かりました。読んで良かったと心から思いました。

 テレビのバラエティでうまく喋れないのが悩みの矢部さん。距離を詰めてくる大家さんに最初は戸惑う矢部さんの目線でお話は進みます。けれども焦点はすぐに矢部さんから大家さんに移りました。

 新宿育ちの大家さんは、家電も洋服も食品も、お買い物はすべて新宿伊勢丹。伊勢丹に明太子一つをタクシーで買いに行きます。毎日きちんとした服装で折り目正しく暮らす大家さんに「お茶はいかが?」「フィアンセはいらっしゃるの?」と尋ねられ、矢部さんは目を丸くします。

 新しい電話器を購入し、お友達の登録を矢部さんに頼んだ大家さんは、
 「あ、この人は施設に入ったからもういいわ」
 「この人は死んでしまったから登録しなくていいわ」
 「えーと、この人は痴呆になってて」
 矢部さんは、「・・・も、もうやめましょう・・・」と泣きそうですが
 大家さんは真剣に住所録を見ながら、
 しぼう・ちほう・しぼう・ちほう・と繰り返すのでした。
 
 もう天井を向いて笑ってしまいました。
 
 矢部さんが芸人仲間に電話口で大家さんのことを「おばあさん」と言ったことに拗ねたり、転ばないようにゆっくり歩く大家さんが「矢部さんはお若いからまだまだ何度も転べていいわね」と微笑むところなど、クスリと笑ってホロリとさせるエピソードが満載。全部実話だそうです。

 数日前に朝日新聞の「天声人語」で大家さんが亡くなったことを知りました。

 東京五輪開催が決定された時「大家さんは二度目のオリンピック、楽しみですね」という矢部さんに「それまで生きてないから興味ないわ」とあっさり答えるくだりもありました。

 東京大空襲も関東大震災も先月の事のように話す大家さん。老いも死もすぐ脇にいるように話す大家さんは、時々別の世界に居るように見えます。カラッと明るく寂しく、心にやさしく沁みました。


by cuckoo2006 | 2018-08-30 19:30 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(5)

「かがみの孤城」辻村深月[著]


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内容紹介

あなたを、助けたい。

学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。


 2018年本屋大賞受賞作品。

 中学1年の安西こころは、入学早々クラスのリーダー格・真田美織に身に覚えのない事で嫉妬の標的にされてしまいます。そしてある決定的な出来事が起こり翌日から、こころは学校へ行けなくなります。こころに恐怖を与えた真田らの幼稚な残酷さ。怯えるこころの心境になったり、ひょっとしたら加害者側に居たかも知れない中1の自分を想像したり。無分別な集団心理に現実感があります。突然、大昔の級友達の顔が浮かんできました。

 何があったかを母親に言えないまま、こころは悶々と自室に閉じ籠もります。娘に寄り添いながらも不安と苛立ちを隠せない母親。感情的になった後に反省し、また自分を立て直す母親に感情移入しました。

 やがて、こころは自分の部屋の光を発する鏡から別の場所に吸込まれていきます。そこには、こころと同じように学校へ行っていない7人の中学生がいました。

 奇想天外な話なのですが、こころと同じような境遇の子ども達が読んだら、どんなにか心が楽になると思います。今、自分のすべてに思えるクラスの人間関係などは振り返れば一瞬のこと。でもその真っ只中にいる間はそうは思えません。物語は大掛かりな舞台装置によって「時間という歳月」を提示してみせます。

 こころを苛め良心の呵責も感じていないように見える真田美織。彼女の言動に迷いが見えないのは多分、想像力というものが欠如しているからでしょう。こころが傷ついたということを、どんなに彼女に説明しても理解するのは難しいでしょう。もし理解できれば、そもそもそういう言動は取らないものだからです。決定的に想像力が欠けているという点では担任の伊田先生も同じ。彼も教師として行なった指導に疑問を抱くことはありません。

 それでも人生は案外公平なものです。他者への想像力を持ち合わせぬまま、勝手な人間が勝手なまま幸せに死ねるほど人生は短くない、というのが中1から半世紀を経た者の実感であります。

作者は、転校生・東条萌にこんなことを言わせます。

「低く見えるのなんて当たり前じゃん。あの子たち、恋愛とか、目の前のことしか見えてないんだもん。クラスじゃ中心かも知れないけど成績も悪いし、きっとろくな人生送らないよ。十年後、どっちが上にいると思ってんだよって感じ。」 

 萌は意に反し、こころを苛めるグループに加担してしまいますが、何が起こったのかを大人に打ち明けます。

 今年の夏休みに小・中・高校生に是非読んでもらいたい一冊。大きく視界が開けるでしょう。


by cuckoo2006 | 2018-07-20 15:57 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(2)

「崩れる脳を抱きしめて」知念実希人〔著〕

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 内容紹介

彼女は幻だったのか?
今世紀最高の恋愛ミステリー!!

作家デビュー5周年、
実業之日本社創業120周年記念作品

圧巻のラスト20ページ!
驚愕し、感動する!!!
広島から神奈川の病院に実習に来た研修医の
碓氷は、脳腫瘍を患う女性・ユカリと出会う。
外の世界に怯えるユカリと、過去に苛まれる
碓氷。心に傷をもつふたりは次第に心を
通わせていく。実習を終え広島に帰った
碓氷に、ユカリの死の知らせが届く――。

彼女はなぜ死んだのか? 幻だったのか?

ユカリの足跡を追い、碓氷は横浜山手を
彷徨う。そして、明かされる衝撃の真実!?
どんでん返しの伝道師が描く、
究極の恋愛×ミステリー!!
2度読み必至!


 毎度、同じ前置きで恐縮ですが、私の大好きな又吉直樹さんが、同じく作家であるNEWSの加藤シゲアキさんと「タイプライターズ~物書きの世界」という番組の司会をしています。毎回、作家のゲストを迎え、その素顔や執筆の裏側を探求していきます。

 フジからBSフジへ移行した第1回目のゲストは、現役医師にしてミステリー作家の知念実希人さん。観覧車に乗った三人が、それぞれの文筆のスタイルなどを披露し合います。そこで知念さんの最新作「崩れた脳を抱きしめて」(2018年本屋大賞ノミネート作品)が紹介されました。

 研修医・碓氷は富裕層向けの療養施設「葉山の岬病院」へ実習に行く。そこで脳腫瘍を患う女性・ユカリと出会う。ユカリの担当医となった碓氷は余命いくばくもない彼女に寄り添う。心に傷を持つ二人は次第に引かれ会うようになる。実習を終え、故郷へ帰った碓氷にユカリの死の知らせが届く。岬病院へ舞い戻った碓氷が院長から告げられたのは思いも寄らない言葉だった。「君は一度もユカリさんを診察していない。全部、君の妄想なんだよ」病室にもユカリさんがいた痕跡は何一つ残っていなかった、、、、

 これは面白そう!作者が一瞬で思いついたというトリックをどうしても知りたくなり本屋さんへ向かいました。大掛かりな謎を一刻も早く解き明かしたい気持がビュンビュンページを捲ります。

 本当にすべては妄想だったのか?と思わせてからの展開に、オバサンの脳は必死について行きます。終盤は頭が大混乱しました。それでも、すべての伏線を回収し、物語は鮮やかに着地してみせます。若い作者と読者にとって今や、この複雑な絡まり具合がミステリーのスタンダードなのでしょうか。

 トリックを言葉で解説するのが、ややこし過ぎてネット上での完全ネタバレは心配なさそう。解説に「どんでん返しの伝道師」、「2度読み必死!」とあり安心もしました。又吉さんがらみで、中村文則さんに続いてまた新しい作家に出会いました。だいぶ草臥れました。


by cuckoo2006 | 2018-05-14 16:00 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(3)

「AX(アックス)」伊坂幸太郎〔著〕

       
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最強の殺し屋は―恐妻家。「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。一人息子の克巳もあきれるほどだ。兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。引退に必要な金を稼ぐため、仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。『グラスホッパー』『マリアビートル』に連なる殺し屋シリーズ最新作!書き下ろし2篇を加えた計5篇。 内容「Bookデータベースより」

 久しぶりに読んだ伊坂幸太郎作品。本屋大賞にノミネートされています。主人公は恐妻家の殺し屋「兜」。請け負った闇の仕事と、家庭での妻への過剰な気遣いが並行して描かれます。

 妻への返答は、「大変だねえ」が基本。どんな状況下でも、まず「大変だねえ」と返せば怒られることはない。妻の話には常に大きく相づちを打つこと。オーバーリアクションをしても怒られることはない。どんな時にも妻の発する「裏メッセージ」を読み取ることを怠らず、家庭の平和を維持する「兜」が何とも言えない可笑しさです。我が家の茶の間と重なってしまいました。

 読み始めは、伊坂さんやや手を抜いたのでは?という一章完結の、あっさり目のお話が続き、これは本屋大賞は遠いと思いました。けれども中盤以降、「兜」の大人になった息子「克巳」が登場するあたりから、ページを捲る指は二倍速になります。文房具メーカー営業マンの父「三宅=兜」を同情かつ尊敬していた「克巳」が父の足跡を辿ります。

 不本意な仕事をしなければならないこと、それでもどんな状況であれ仁義は通すこと、殺し屋稼業に現実社会が重なります。殺し屋の哀しさに、お父さんの哀しさが重なります。最終章を読み終わった時、「兜」の人生が沁みてきました。

 今回、夫婦のやり取りや、特に幼い子どもの描写など、目の前で見ている臨場感がありました。伊坂作品を読んで作者の日常が浮かんできたのは初めてです。伊坂さんも毎日頑張っているのだなあと。プライベートは全く存じませんが。

 2018年本屋大賞は、辻村深月さんの「かがみの孤城」に決定。「AX」は5位となりました。

by cuckoo2006 | 2018-05-04 20:53 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(2)

「去年の冬、きみと別れ」中村文則[著]


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内容紹介
ライターの「僕」は、ある猟奇殺人事件の被告に面会に行く。彼は二人の女性を殺した罪で死刑判決を受けていた。だが、動機は不可解。事件の関係者も全員どこか歪んでいる。この異様さは何なのか? それは本当に殺人だったのか? 「僕」が真相に辿り着けないのは必然だった。なぜなら、この事件は実は――。話題騒然のベストセラー、遂に文庫化!

 私の大好きな又吉直樹さんが心酔する中村文則氏。2005年「土の中の子供」で芥川賞を受賞した純文学作家です。「中村文則の本を読めるだけで僕は生きていける」という又吉さんの文章を読んだことがあります。

 その又吉さんが「読み終わった時は10年に1回あるかないかの感覚だった」という中村文則の「教団X」。迷うことなく書店の本棚から引き抜いたのは3年前のことです。

 「又吉先生、カネ返してください!」が私の一番の感想でした。この小説の良さが全く解らないまま厚さ5cmの単行本を閉じました。辟易する一方、新しい感覚の小説がもう自分には理解できないのだという一抹の寂しさを感じました。それ以来、書店の棚で中村文則という名前を見るとサッと目を反らしています。

 けれどもこの春、映画化され山積みの文庫本「去年の冬、きみと別れ」を手に取ってしまいました。表紙右上には「すべての人がこの罠にハマる」とあります。私にも大丈夫そうな予感です。

 再会した中村文則作品は久々の“一気本”でした。ミステリー要素に引き込まれ最高に面白かったです。「去年の冬、きみと別れ」たのは登場人物のうちのいったい誰なのか?想像もできない世界でした。ミステリーの奥に流れる独特の世界観も感じられました。本書は「教団X」より一年前に書かれています。大好きな又吉先生の大好きな中村文則作品に私の歯が立つ部分があって一安心でした。
 

by cuckoo2006 | 2018-03-24 22:27 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「おらおらでひとりいぐも」若竹千佐子〔著〕

 
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内容 74歳、ひとり暮らしの桃子さん。夫に死なれ、子どもとは疎遠。新たな「老いの境地」を描いた感動作!圧倒的自由!賑やかな孤独!63歳・史上最年長受賞、渾身のデビュー作!第54回文藝賞受賞作。








 「あいやぁ、桃子さん、私にそっくりだわ!」出だしから引き込まれました。

 著者は63歳主婦・若竹千佐子さん。芥川賞受賞の記者会見で受け答えされる姿に引かれ、すぐ本屋さんへ走りました。数件回りましたが、北千住の紀伊國屋書店にも影も形もありません。手に入ったのは1週間以上も後のこと。売切れ続出というのではなく、書店にとって全くノーマークの本だったようですね。
 
 一日で読了、続けてもう一回初めから読みました。著者に無性にシンパシーを感じただけのことはあります。主人公の主婦・桃子さん(74歳)の思考回路が自分と重なって驚きました。こういう人って自分の他にもいるんだ、と読者に思わせるところは作者の力量でしょう。

 冒頭から、というよりも全編を通して桃子さんの東北弁による独白です。その独白とは、話し手も「おら」、聞き手も「おら」、小腸の柔毛突起のように何人もの「おら」がいて、それぞれ交互に大きくなったり小さくなったりしながら物を言い合うのです。

 桃子さんは理屈っぽく観念的で人付き合いが悪く考え抜く性格。自分の頭の中でとことん考え抜いた末、自己完結します。面倒臭い性格の桃子さんに激しく共感しました。

 夫が死に子供達は離れ、一人生きる意味を桃子さんは問い続けます。雨だれを眺めながら、洗濯機の渦を覗き込みながら、市営墓地へ向かいながら。そしてストンと桃子さんに落ちてきた答え。それは人生の真実そのものです。人の心は一筋縄では行かないのっす。

 恥ずかしながら私も小さなことに悩み、その事に心を支配され考え抜く性分です。それでも考えることに、いい加減疲れ果てた時にストンと落ちてくるものがあります。心が現実と折り合いをつけるのでしょう。難儀な自分に辟易しますが、桃子さんもおんなじだあと嬉しくなりました。

 そして、私にストンと落ちてきた感想は、長生きしたくても、したくなくても死ぬ日まで生きていくということ、死ぬその日まで生きるのだという、さっぱりした覚悟でした。桃子さんが心の友達になりました。


by cuckoo2006 | 2018-02-04 20:32 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(2)

「澪木」朴重鎬[著]


 d0074962_15010304.jpg『「北」への帰国とは何だったのか。祖国・北朝鮮へ帰国した弟夫婦の惨憺たる生活、子どもたちを民族学校から日本の学校へ転校させる姉夫婦、そして「愛国組織」──。一人の女性の生に在日同胞の現代史を集約して描く力作長篇小説。』(帯より)




 読んでいて楽しくなる本ではありませんが、強く引き込まれました。時代は1950年代後半、主人公の明姫(ミョンヒ)は東京にある民族学校の教師。「愛国事業」に関わる編集者の夫、一歳の娘と暮らしています。朝鮮料理店を営む明姫の両親は濃密な愛情を子供達に注いでいます。

 

 明姫の日常生活を通して「愛国組織」への忠誠と同胞達との肉親のような絆が描写されます。日本という国に住みながら祖国・北朝鮮の一員としての強固な価値観を持つ人びと。彼等の内面を始めて知る思いでした。

 

 私達と懸け離れた世界にいる明姫ですが、妻、母、娘としての思いは当たり前過ぎるほど普遍的です。実家を助けることについての夫への遠慮、両親が自分を頼り切っていることへの気の滅入り、乳飲み子と保育園で別れる切なさなど身に覚えのある感情が沸き上がります。作者が男性であることが信じられないほど明姫の揺れ動く胸の内にリアリティがありました。


明姫は弟の面倒を見ながらも、おとなし過ぎる性格に不甲斐なさを感じています。その弟が、亡くなる前のオモニ(母親)の世話を買って出ます。病院の暗い小部屋で死を待つオモニ。弟の優しさが明姫の心を救います。強く印象に残る場面でした。


オモニの死後、父と弟は祖国への帰国を決めます。これが彼等にとって未来の開ける、正しい選択と信じ送り出す明姫。彼女は心に重りをつけたように苦しむことになります。


祖国での苛酷な生活は、弟家族からの手紙文ですべて表現されます。手紙は毎回、生活の苦しさを嘆き、時計、ミシン、靴などを送ってくれという訴えで占められます。弟家族の叶えられない願いは次第に怒りを含んだものに変わっていきます。


弟一家へ心配と同情を深めながらも、それらの手紙は明姫の心を彼等から遠ざけます。夫の看病のため教員を辞め北海道で暮らす明姫の生活も厳しいものでした。現実感にあふれた双方の心理描写に胸が塞がれます。

 

 物語の中には日本人がほんの僅かに登場します。明姫の近所の日本人主婦達は軸のない、ふわふわとしたお気楽な存在に描かれます。仲良くしていても明姫と彼女達の間には、はっきりと一線が引かれていることが感じられます。

 

 もう一人終盤に登場する、夫の子供の頃からの知り合いの「森田の小母さん」。彼女はお裾分けや心付けを申し訳なさそうにそっと置いておくような心根の優しい人。日本人読者としては彼女の存在に救われます。


日本で生きていく以外に道はない明姫夫婦は、娘達を民族学校から日本の公立小学校へ転校させることを決意します。民族学校の寄宿舎から娘達の荷物を夫婦が運び出すところで物語は終わります。


重く暗い題材ですが、「いじいじ考えてばかりいて何もしないでいるのは性に合わない」明姫の気質が物語を支えています。

 

 生まれ育った日本と祖国に引き裂かれながら人生を歩む主人公。その心の深淵に少しだけ触れる思いで本を閉じました。


by cuckoo2006 | 2017-12-01 18:15 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(2)

「蜜蜂と遠雷」恩田陸〔著〕

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私はまだ、音楽の神様に愛されているだろうか?ピアノコンクールを舞台に、人間の才能と運命、そして音楽を描き切った青春群像小説。著者渾身、文句なしの最高傑作!

内容(「BOOK」データベースより)


 

 一冊の本を読み終えた達成感を味わいました。これは久しぶりの感覚です。海に面した架空の地方都市「芳ヶ江」で行われる国際ピアノコンクール。その1次、2次、3次予選と本選の全てが記録されています。

 

 実は物語のあらすじを聞いて、なかなか読む気になれませんでした。音楽に素養のない自分には苦手分野の小説。おまけに2段組みの本は腕が痛くなるほどの重さです。それでも数ページ捲ると苦手意識はどこかへ飛んでいきました。

 

 ーー明るい野山を群れ飛ぶ無数の蜜蜂は、世界を祝福する音符であるーー

 ーー世界とは、いつもなんという至上の音楽に満たされていたことだろうーー

 

 光が降り注ぐような序章とともに、キャンパス地のカバンを肩から、たすき掛けにした『風間塵』が登場します。彼の魅力が、この物語の魅力でした。私の頭の中では、振り払っても振り払っても最後まで、『風間塵』の顔が、連勝記録を伸ばしていた棋士の藤井総太四段の顔でした。私のような読者、他にもいたのではないでしょうか。若き天才というものは茫洋として自然体なのかも知れません。


 類い稀な才能に並外れた情熱、『風間塵』はじめ主要な4名のコンテスタント達は、凡人の手の届かぬ所に立っています。そんな彼等一人一人の苦しみと不安が吐露されます。そして物語は、コンクールの審査員、取材記者、友人、家族と視点を移しながら進んでいきます。


 ピアノ曲、一曲一曲を表現する言葉の多彩さ、イメージの広がりに圧倒されました。時に文学的に時に感覚的に、音符が文字に変換されていくようです。聴いたことのない曲や作曲家が身近に感じられました。クラシックを聞くという趣味のない自分が退屈せずに読んでいることが不思議な気持です。


 一体この中の誰が優勝するのか、読み進むに連れ興味はそこへ集約されます。最後のページに、すべての順位が明らかにされます。並んだ名前の一人一人をねぎらいたい気持でした。ちょっとした仕掛けもあり後味がぐっと良くなります。

 

 本を閉じた時、2週間に渡るコンクールのすべてを観客席で見届けた思いでした。直木賞・本屋大賞ダブル受賞、納得の一冊です。



by cuckoo2006 | 2017-08-23 20:39 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「劇場」又吉直樹〔著〕


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《演劇を通して世界に立ち向かう永田と、その恋人の沙希。夢を抱いてやってきた東京で、ふたりは出会った―。『火花』より先に書き始めていた又吉直樹の作家としての原点にして、書かずにはいられなかった、たったひとつの不器用な恋。夢と現実のはざまにもがきながら、かけがえのない大切な誰かを想う、切なくも胸にせまる恋愛小説。》

内容(「BOOK」データベースより)


期待は裏切られません。読み終わって何とも哀しい気持になりました。若い男女の恋愛小説なのですが、そこには男と女の、人と人との解り合えない生身の感情が充満しています。心が大きく動かされました。


物語は、主人公・永田が八月の午後、新宿から渋谷の人混みを朦朧と歩く描写から始まります。身体と心がバラバラのまま、自らの五感を実況中継していくような息苦しさ。壊れかかっている永田自身の感覚が皮膚を通して伝わってきます。


沙希との出逢いや会話のいくつかなどは既に又吉さんのエッセイで読んだことのあるエピソードでした。実体験の強みは伝わりますが、やはり新鮮さは薄れます。小説の中で最初に読みたかったと思いました。


沙希と暮らし始め、永田はギリギリのところで自分を取り戻します。けれども、次第に永田は沙希に依存していきます。又吉さんそのもののような永田という人間の、はらわたを晒すような独白が続きます。嫉妬とプライドの卑小さ、卑小さを隠そうとする傲慢さ。あまりの赤裸々さが快感なほどです。


私は女なので、こういう場面で男とはこんなふうに考えているのかと、目から鱗の部分もありました。


新聞の書評に「女性の描き方に現実感がない」という趣旨の意見がありましたが、私は沙希の感覚、行動に共感しました。沙希と同じような想いをした若い日の自分にも逢えました。限界を越えてしまった沙希の変わりぶりも真実でしょう。そして彼女の選んだ道は正しいものと信じます。


最初が素晴らしいと言いましたが、終わり方も成功しています。 
の最後には大きな違和感がありましたが、この本の結末は沁みます。泣けます。悲しさ、切なさ一杯に本を閉じました。



by cuckoo2006 | 2017-06-30 18:24 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「みかづき」森絵都〔著〕

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内容紹介

【祝】2017年本屋大賞第2位!!
【祝】王様のブランチ ブックアワード2016大賞受賞!!

「私、学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思うんです」
昭和36年。人生を教えることに捧げた、塾教師たちの物語が始まる。
胸を打つ確かな感動。著者5年ぶり、渾身の大長編。

小学校用務員の大島吾郎は、勉強を教えていた児童の母親、赤坂千明に誘われ、ともに学習塾を立ち上げる。
女手ひとつで娘を育てる千明と結婚し、家族になった吾郎。ベビーブームと経済成長を背景に、
塾も順調に成長してゆくが、予期せぬ波瀾がふたりを襲い――。

阿川佐和子氏「唸る。目を閉じる。そういえば、あの時代の日本人は、本当に一途だった」
北上次郎氏「圧倒された。この小説にはすべてがある」(「青春と読書」2016年9月号より)
中江有里氏「月の光に浮かび上がる理想と現実。真の教育を巡る人間模様に魅せられた」


 2017年本屋大賞2位作品。既に直木賞を受賞している恩田陸さんの「蜂蜜と遠雷」が、この本を押さえて史上初のダブル受賞を果たしました。本の売り上げを考えれば、大きな二つの賞は別々の作品にした方が絶対良いと思いますが、何故「蜂蜜と遠雷」が二冠を制したのかを皮肉にも納得してしまいました。


 学習塾を舞台にした親子三代に渡る壮大な物語は、時が進むに連れ余りにもイイ話になってしまいます。白けました。


 昭和36年、小学校の用務員の吾郎は、用務員室に集まる授業について行けない子供達に勉強を教えていました。吾郎の指導方法は評判になり、やがてパートナーとなる児童の母親の千明と小さな補習塾を始めます。昭和30年代に小学生だった私は長女の蕗子と同い年。夕暮れ時にそろばん塾へ向かった街の光景が蘇りました。


 塾は実のない教育界の徒花と煽る世間の風と戦いながら、理想の授業を開拓するこの辺りまでの描写は生き生きとしています。登場人物の吾郎、千晶、蕗子くらいまではそれぞれの表情が浮かんでくるのですが、その後に生まれた妹二人、孫に至ってはステレオタイプ。塾創世記の昭和の時代に深みがあるので、読み進むごとに予定調和の世界を感じてしまいます。後半の浅さ薄さで読後感は大損してます。


 森絵都さんの

で感じたピリッとした何かが足りませんでした。「蜂蜜と遠雷」が二冠に輝いたということは私のようなヒネクレ者が少なからず居たということかも知れません。とは言うものの「蜂蜜と遠雷」は未読。偉そうなことを言った手前これから読んでみることにします。


by cuckoo2006 | 2017-05-24 14:03 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)