小説、映画、絵手紙、都々逸
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カテゴリ:本(外国のもの)( 12 )

祝!カズオ・イシグロ ノーベル文学賞受賞!!

『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ[著] 土屋政雄[訳]


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内容紹介「自他共に認める優秀な介護人キャシー・Hは、提供者と呼ばれる人々を世話している。キャシーが生まれ育った施設ヘールシャムの仲間も提供者だ。共に青春 の日々を送り、かたい絆で結ばれた親友のルースとトミーも彼女が介護した。キャシーは病室のベッドに座り、あるいは病院へ車を走らせながら、施設での奇 妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に極端に力をいれた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちの不思議な態度、そして、キャシーと愛する人々 がたどった数奇で皮肉な運命に……。彼女の回想はヘールシャムの驚くべき真実を明かしていく――英米で絶賛の嵐を巻き起こし、代表作『日の名残り』を凌駕する評されたイシグロ文学の最高到達点 。」

 久々の“一気本”でした。
 物語は、31歳になった介護人キャシー・Hが子供時代を過ごした全寮制の施設へールシャムでの生活を回想していく形で進みます。子供同士の仲間意識やちょっとした意地悪に喧嘩など、丹念な描写に馴染み深い感情が甘酸っぱく蘇ります。

 その一方で、教師を保護官と呼び、外界から遮断されたこの施設の実態はどういうものなのか?「提供」という言葉の意味するものは?そしてこの物語はどこへ辿り着くのか?読者に不吉な予感を感じさせながら、へールシャムの中で子供達は成長して行きます。

 そして、友人同士の親密さ、気まずさ、微妙な力関係や淡い想いなど、刻々と変化していく感情が息苦しいほど繊細に描かれていく。どれもこれも脈打つような描写に引き込まれました。

 1章進むごとに主人公達は、9歳、13歳、16歳・・と年齢を重ね、へールシャムの輪郭が次第にくっきりしてきます。この物語は一体どこへ行くのか?という興味が、グングン加速します。

 ラストは、やはりカズオ・イシグロでした。すべてが明らかにされた後、淡い余韻を残し物語は終わる。言ってみれば奇想天外なストーリーなのですが、主人公達が与えられた運命を淡々と受け入れていくところに、現実の社会に適応して生きるという意味において、自分に引き付けて感じられるものがありました。作者の巧さであり物語の哀しさでしょう。

 人と人との間にある“空気”を繊細に掬い取る描写とストーリーへの興味に、ページを捲る指が止まりませんでした。

(2007年8月9日掲載記事)





by cuckoo2006 | 2017-10-08 18:02 | 本(外国のもの) | Trackback | Comments(0)

「よくできた女(ひと)」バーバラ・ピム[著]

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内容紹介
舞台は、まだ食料配給がつづく戦後のロンドン。ヒロイン兼語り手のミルドレッドは30歳を過ぎた独身女性。
両親の残してくれたささやかな収入に頼りつつ、パートタイムで働く彼女は、親しい牧師姉弟や旧友ドーラと交流したり、教区活動に加わったりしながら平穏な生活を送っていた。そんな彼女の住むフラットの下に、文化人類学者のヘレナと海軍将校の夫が引っ越してきた。美人で魅力的だが家事はさっぱりのヘレナと、ハンサムで女たらしのロッキーという「華のある」夫妻の登場で、ミルドレッドの静かな生活に波風が立ちはじめる…… さしたる大事件も突出した人物もないのに読者をうならせる。定年退職小説『秋の四重奏』で日本の読者の心もつかんだ、バーバラ・ピム。没後に評価ますます高まり「20世紀のオースティン」とも称される英国女性作家ピムの代表作にして、「おひとりさま」小説の傑作を、瑞々しい訳文で楽しまれたい。


 イギリスらしい小説です。実は途中まで、この物語は第二次世界大戦直後を舞台として、近年に書かれた時代小説とばかり思っていました。初版が、1952年と知ってびっくり。それくらい感覚が新しく古臭さを感じません。それで当時のロンドンの暮らしや風習が生き生きと伝わってくる。好みの小説でした。

 ヒロイン・ミルドレッドは、牧師の家庭に育ち、両親亡き後も教会の交友関係の中で過ごし奉仕活動を主としている。堅実で信頼できる人物として教区の中で一目置かれる存在です。そんな彼女の周囲を観察する目を通し、物語は進みます。善意溢れる人々との噛み合わない会話や身近な人々への辛辣な人物評、食事に掃除に紅茶の濃さ薄さまで、細やかな日々の暮らしをミルドレッドの心の声がありのままに語ります。プライドの高さと僻み心が同居したようなヒロインをあまり好きになれませんでしたが、我が身に重なるような親近感も感じてしまいます。

 ミルドレッドのアパートの一階に越してきた若夫婦は、彼女の周りの善良で退屈な人々とは全く違うタイプの人間でした。華やかで個性的な彼等の出現により、冷静な彼女の心も乱れ始めます。思わせぶりな態度を示す夫に心ならずも引かれてしまうミルドレッドでしたが、その魅力的な彼が全く薄っぺらな男だということも彼女にはちゃんと解っています。また一方では、好意を持たれていると自覚していた、家族同様の牧師の突然の結婚により、“振られた女性”というレッテルを貼られてしまいますが、敢えて強く反論もしない。その上、若夫婦も新婚の牧師夫妻さえも、ミルドレッドが解決する義務があるとでもいうように、自分達の起したトラブルを彼女の元へ持って来るのです。

 憤慨しながらも、彼女は彼等のために心を配り体を動かします。「ここに来ればいつもお茶を淹れてもらえるとは思われたくないわ」とうんざりする彼女でしたが、結局は丁寧にお茶を淹れてしまいます。やはり「よくできた女」なのですね。やがて、階下の若夫婦が出て行き、以前の平和が戻ります。ミルドレッドは、安堵しつつも少しだけ物足りない寂しい様子にも見えました。心って複雑なものですね。

 街の市場やレストラン、教会のバザーやバスルームを共用するアパートなど、当時のままのロンドンの日常も楽しめます。そうそう、若夫婦は去りましたが、妻の同僚男性の文化人類学者とミルドレッドは、意外とうまくいったのかも知れません。


★次回は、村上春樹の「レキシントンの幽霊」です。

by cuckoo2006 | 2013-01-13 19:41 | 本(外国のもの) | Trackback | Comments(0)

「未完の肖像」アガサ・クリスティ[著]

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内容(「BOOK」データベースより)
内気で多感なシーリアは母親や周囲の人々に温かく見守られ、バラ色の子供時代を過ごした。やがて美しく成長した彼女は、ダーモットという危険な魅力の男に惹かれ、婚約を破棄して彼の元に走る。だが、夢見がちなシーリアと現実的なダーモットとの間には次第に亀裂が生じていく。愛に破れた女性の行き着く先とは。


 アガサ・クリスティのノンミステリものの1冊。メアリ・ウェストマコット名義で書かれた本です。描かれるのは、3才から39才までの一人の女性の人生。ヒロインの胸の内が丹念に綴られ、読んですぐに、主人公・シーリアは、クリスティ自身なのだろうとピンときます。

 シーリアは、小さな子供の頃から、常に物事を深く強く感じる性質で、空想の中で生きているような少女でした。彼女と良く似た気質の愛情深い母と、包容力のある父に守られ、シーリアは豊かな子供時代を過ごします。日々の繊細な描写が延々と続くのですが、著者には掛替えのない記憶であっても、こちらとしては、それほどの興味はそそられず、この部分ではかなり退屈しました。

 戦争の影が色濃くなる中、美しく成長したシーリアに求愛する男たちが次々に現れます。彼等への赤裸々な評価が語られるあたりから、物語はにわかに面白くなります。シーリアの心は、そのままの彼女を包み込んでくれる幼馴染の婚約者から、強引で野心家のダーモットへ傾いていきます。「永遠に美しいままでいてくれ」と強く彼女に求めるダーモットに、愛情と同時に恐怖も抱くシーリアでしたが、燃え盛る恋心を止めることはできません。

 夫の期待に添うよう、シーリアは自分を失ったような結婚生活を送ります。しかし、十年が過ぎようとする時、ダーモットは、好きな女性と結婚したいから別れてくれ、と残酷な要求を妻に突き付ける。一番の理解者であった母の死。ダーモットの現実的気質を受け継いだ一人娘との確執。苦しみの中、シーリアは遂に一人で歩き出す決意をします。やがて、39才を迎えたシーリアは、一人の男性と心を通い合わせる。しかし、彼の「約束してください。美しいままでいることを」という一言が、忌まわしい過去を呼び起こし、シーリアは何も言わず彼のもとを去ります、、、、

 本の中では、二番目の恋は成就しないのですが、クリスティ作品完全読破した友人に寄ると、二番目の年下の夫とクリスティは生涯を伴にし、夫妻でのアフリカへの旅行などから、「ナイル殺人事件」など数々の名作も生まれたのだそうですね。

 最愛の母の死後、最初の夫が、愛人と再婚するために離婚を申し出、そんな時期にクリスティが起こした失踪事件も実際に報道されたことだそうです。ページを捲るうちに、細やかに揺れ動くクリスティの心と彼女の人生に寄り添うような感覚がありました。以前読んだノンミステリの「春にして君を離れ」も、とても良かった。主人公の独り善がりな主婦に自分が重なるように思え、背筋が寒くなったのを覚えています。

 アガサ・クリスティも私生活では、この世にある普遍的とも言える苦しみを体験したのですね。偉大な作家を少し身近にも感じました。


★次回は、藤岡陽子の「海路」です。

by cuckoo2006 | 2012-10-04 20:17 | 本(外国のもの) | Trackback | Comments(0)

「最終目的地」 ピーター・キャメロン[著]

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内容(「BOOK」データベースより)
南米ウルグアイの人里離れた邸宅に暮らす、自殺した作家の妻、作家の愛人と小さな娘、作家の兄とその恋人である青年。ナチスの迫害を逃れてきた先代が、ドイツ風の屋敷をたてたこの場所で、人生を断念したかのように静かな暮らしが営まれていた。そこへ突然、作家の伝記を書こうというアメリカの大学院生がやってくる。思いがけない波紋がよびさます、封印した記憶、あきらめたはずの愛―。全篇にちりばめられたユーモアと陰翳に富む人物像、それぞれの人生を肯定する作者のまなざしが、深く暖かな読後感をもたらす。英国古典小説の味わいをもつ、アメリカの傑作小説。


 2年前の新聞の書評欄の切り抜きがひょっこり出てきて、予約待ちゼロで図書館から借りられました。2009年発刊です。

 やはり書評を切り抜いた(随分忘れていたが)だけのことはあって自分好みでした。ミステリー要素ナシでこれだけの長編をぐいぐい読ませるのは作者の筆の巧みさでしょう。登場人物の一人一人がクリアな輪郭で浮かび上がってきます。
 
 一作の小説を世に出した作家の伝記執筆の公認を得るため、アメリカの大学院生は三名の遺言執行者の説得のためウルグアイへ向かう。この伝記には彼の将来がかかっていた。彼を迎えた遺言執行者の三名とは、作家の妻と、愛人と、作家の兄。妻と、愛人と小さな娘は、同じ屋敷の別棟で暮し、作家の兄は、若いパートナーの男性と少し離れた住居にいる。大学院生には、ウルグアイ行きを彼に強く薦めた年上のガールフレンドがいる。

 これが物語を構成する登場人物です。作家の妻と愛人は、互いを認め合い不思議な均衡関係を保っています。また、作家の年老いた兄と若いパートナーも小さな摩擦を生じながらも優しく労りあっている。そこへ、愚かしいほどの純粋さ、正直さを持った大学院生が現れることにより、危ういバランスを保っていた彼等の関係が変化していきます。めったにない来客に心浮き立つ者、その反対に固く心を閉ざす者、三者三様の反応を見せます。

 たくさんの会話体の中に、穏やかで慎ましい人々の本音が顔を出します。妻と愛人の互いに対する辛辣な評価など、そりゃあ、そうだろう、と納得。そもそも、なんで妻と愛人が作家の死後も(死ぬ前だって)一緒にいるのか?その理由もやがては明らかになり、彼等の過去も語られていきます。大学院生の子供のような無防備さが、皆の口を自然に開かせてしまうのでしょう。

 伝記執筆へそれぞれの思惑がぶつかり合い、仕舞い込んでいた作家への思いも溢れ出します。そしてまた、彼等の運命も動き出す。私は、結構嫌な女だった「妻」に多く感情移入するところがありました。その彼女が大きく歩み出したことに心が晴れました。幾つかの恋愛関係が描かれますが、印象に残ったのは、「自分が自分でいられること」が人間関係のキーだという大学院生の言葉。これも我が意を得たりでした。

 この本は映画化され、一番好感が持てた作家の兄役がアンソニー・ホプキンス、これはイメージピッタリ。その恋人役は、真田広之だったそうでこちらはピンときません。その恋人の青年が、大学院生とガールフレンド(彼女もウルグアイに現れる)を空港へ送る際、二人から彼の期待していたような態度や言葉が示されず、失望して帰途につく心理描写など、覚えのある切なさが染みました。そう、誰もがどこか思い当たるようなたくさんの感情が掬いとられています。共感できました。

 それにしても、もし大学院生がウルグアイを訪れていなかったら、と考えるとゾッとしますね。彼の出現が、結果的にすべての人に良い結果をもたらした。そして、彼自身の最終目的地も変更されたのでした。


★次回は、映画「ゴーストライター」です。

by cuckoo2006 | 2011-10-05 15:28 | 本(外国のもの) | Trackback | Comments(0)

「女たちの遠い夏」 カズオ・イシグロ〔著〕

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内容(「BOOK」データベースより)
『イギリスに住み、娘の自殺という事態に遭遇した悦子は、自分が生きてきた道を回想する。裏切りの記憶、子殺しの幻影、淡く光った山並みの残像―戦後の長崎を舞台に、戦争と戦後の混乱に傷ついた人々の苦しみを、端正流麗な文体で描きあげる。謎めいた構成の背後から、戦後日本の一つの透し図が現われ出る…。長崎生まれ英国育ちでブッカー賞受賞の日本人によるイギリス文壇へのデビュー作。』





微かに不吉な予感を漂わせながら、物語は淡々と進みます。心がざわっと波立つような感覚にページを捲る指が逸りました。やっぱり、カズオ・イシグロは、デビュー作から面白かった!

舞台は、戦後すぐの長崎と、それから二十数年を経たイギリス、二つの時代が交差します。カズオ・イシグロは、五才の時、渡英し、すべての教育を英国で受けたそうです。その著者によって、日本を舞台にした小説が描かれたわけですが、違和感はありませんでした。ただ、独特のゆったりしたリズムが、“小津安二郎”だった。舅と嫁の関係や、同じことを何度も繰り返す会話などは、小津映画そのもの。日本語をほとんど話せないという著者の日本人のイメージが、笠智衆に原節子、というのが何だか当たり前過ぎて、逆に驚きました。

けれども、小津映画とは別の方向に、物語は少しずつ暗い影を広げていきます。二つの時代の語り手は、同じ女性なのか、不幸な運命に押し流される二人の少女は同一人物なのか・・・とらまえどころのないゆらゆらとした流れに、惹き付けられます。
ラストは、ばっさり終わりました。今まで何冊か読んだイシグロの一分の隙もない繊細さとはまた違う世界でしたが、不思議な磁力は、デビュー作から発揮されています。

原題は、"A Pale View of Hills"、邦題の「女たちの遠い夏」は、早川文庫に収められる際、「遠い山なみの光」に改名されたそうです。どことなく朧げな感じが、新しいタイトルの方に似合っています。写真は、図書館から借りた絶版の文庫本の表紙。
by cuckoo2006 | 2007-09-24 12:05 | 本(外国のもの) | Trackback | Comments(0)

「わたしを離さないで」 カズオ・イシグロ〔著〕土屋政雄〔訳〕

d0074962_1823039.jpg内容紹介「自他共に認める優秀な介護人キャシー・Hは、提供者と呼ばれる人々を世話している。キャシーが生まれ育った施設ヘールシャムの仲間も提供者だ。共に青春 の日々を送り、かたい絆で結ばれた親友のルースとトミーも彼女が介護した。キャシーは病室のベッドに座り、あるいは病院へ車を走らせながら、施設での奇 妙な日々に思いをめぐらす。図画工作に極端に力をいれた授業、毎週の健康診断、保護官と呼ばれる教師たちの不思議な態度、そして、キャシーと愛する人々 がたどった数奇で皮肉な運命に……。彼女の回想はヘールシャムの驚くべき真実を明かしていく――英米で絶賛の嵐を巻き起こし、代表作『日の名残り』を凌駕する評されたイシグロ文学の最高到達点 。」

 久々の“一気本”でした。
物語は、現在31歳になった介護人キャシー・Hが、子供時代を過ごした全寮制の施設へールシャムでの生活を回想していく形で進みます。
子供同士の仲間意識やちょっとした意地悪に喧嘩など、丹念な描写に馴染み深い感情が甘酸っぱく蘇ります。

 その一方で、教師を保護官と呼び、外界から遮断されたこの施設の実態はどういうものなのか?「提供」という言葉の意味するものは?そしてこの物語はどこへ辿り着くのか?読者に不吉な予感を感じさせながら、へールシャムの中で子供達は成長して行きます。

 そして、友人同士の親密さ、気まずさ、微妙な力関係や淡い想いなど、刻々と変化していく感情が息苦しいほど繊細に描かれていく。どれもこれも脈打つような描写に引き込まれました。

 1章進むごとに、主人公達は、9歳、13歳、16歳・・と年齢を重ね、へールシャムの輪郭が次第にくっきりしてきます。この物語は一体どこへ行くのか?という興味が、グングン加速します。

 ラストは、やはりカズオ・イシグロでした。すべてが明らかにされた後、淡い余韻を残し物語は終わる。言ってみれば奇想天外なストーリーなのですが、主人公達が与えられた運命を淡々と受け入れていくところに、現実の社会に適応して生きるという意味において、自分に引き付けて感じられるものがありました。作者の巧さであり物語の哀しさでしょう。

 人と人との間にある“空気”を繊細に掬い取る描写と、ストーリーへの興味に、ページを捲る指が止まりませんでした。
by cuckoo2006 | 2007-08-09 18:27 | 本(外国のもの) | Trackback | Comments(6)

「わたしたちが孤児だったころ」カズオ・イシグロ〔著〕入江真佐子〔訳〕

d0074962_15504310.jpg『上海の租界に暮らしていたクリストファー・バンクスは十歳で孤児となった。貿易会社勤めの父と反アヘン運動に熱心だった美しい母が相次いで謎の失踪を遂げたのだ。ロンドンに帰され寄宿学校に学んだバンクスは、両親の行方を突き止めるために探偵を志す。やがて幾多の難事件を解決し社交界でも名声を得た彼は、戦火にまみれる上海へと舞い戻るが…現代イギリス最高の作家が渾身の力で描く記憶と過去をめぐる至高の冒険譚。』


すーっと心に文章が入ってくる。やっぱりこの作家と相性がいいんだなと思いました。
数行の文に、さーっと遠いところへ連れて行かれるような感覚がありました。

物語は、主人公クリストファーの9歳から10歳の子供時代、大人になってからの1930年代、そして最終章が1958年という三つの時代から成る構成。一人称の淡々とした語り口に、記憶の糸が紡がれていきます。

この前半部分、上海の租界で過ごす子供時代の回想が、もうとにかく良かった。複雑な大人の事情は理解出来なくても、ある場面で自分が期待されている役割をはっきりと認識し、それに沿って行動すること、また母親が幸福そうに笑っている時、嬉しくて駆け出すのを止められない様子など、息づくような描写に自分の子供時代が蘇ってきます。

本を閉じて読書スタンドを消すと、自分が子供時代を過ごした新宿・東大久保の平屋建てが並ぶ社宅の風景が浮かんできました。子供の目線のまま、40年近く前のスクリーンを見ているような不思議な感覚でした

けれども、大人になったクリストファーが再び戦火の上海を訪れてからの展開は、ガラリとトーンが変わってしまう。別の話になってしまったような唐突な印象です。現実と幻想の狭間という設定なのでしょうが、大きな違和感がありました。

最終章では、過去と静かに対面し、穏やかに未来へ思いを馳せる。胸に染み渡りました。これは「日の名残り」と同じ。ラスト・シーンの巧い作家だと思います。

「“自分の一部”のような本--つまり、わたしたちも、また、孤児だった--」と巻末の解説に古川日出男氏が書いています。

心のオクのほうが共鳴した小説でした。
by cuckoo2006 | 2007-04-28 16:32 | 本(外国のもの) | Trackback | Comments(6)

「日の名残り」 カズオ・イシグロ〔著〕土屋政雄〔訳〕

d0074962_17424295.jpg『品格ある執事の道を追求し続けてきたスティーブンスは、短い旅に出た。美しい田園風景の道すがら様々な思い出がよぎる。長年仕えたダーリントン卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々―過ぎ去りし思い出は、輝きを増して胸のなかで生き続ける。失われつつある伝統的な英国を描いて世界中で大きな感動を呼んだ英国最高の文学賞、ブッカー賞受賞作。』(内容「BOOK」データベースより)


イギリスの香りが満ち溢れた小説でした。
物語は、旅の道すがら、中年を過ぎた執事の回想により淡々と進みます。邸内の隅々までを取り仕切る手腕と何より重んじられる人間的品格、イギリスにだけ存在する執事という職業がきめ細やかに描かれます。

屋敷内で行なわれる非公式の国際会議を手抜かりなく行なうことが、主人の活動の成否に結びつくという自負、銀食器が完璧に磨き上げられているか、お茶のサービスが寸分狂いのないタイミングでなされるか、自分の仕事が国際問題解決に直結すると信じる職業的プライドに、スティーブンスは生涯を執事の職務に捧げ尽くします。

しかし、真の紳士であっても外交家としてはアマチュアであるダーリントン卿は、政治の利害の中、次第に大きなうねりに飲み込まれていく。主人に仕えることがすべてだったスティーブンスの執事人生も大きく変化していきました・・・

女中頭、ケントンとの再会の場面は胸に染みます。抑制の効いた二人のやり取りに成熟と誠実があぶりだされるようです。ここからラストまでの流れは、主人公と心を重ね合わせながらゆっくり読んでいきました。

そして、旅の終わりの夕暮れ時、桟橋のベンチに佇むスティーブンスの脇に一人の男が腰を下します、「人生、楽しまなくっちゃ。夕方が一日で一番いい時間なんだよ・・・」ひとしきりの会話の後、男はこういい残し、立ち去る・・・スティーブンスの思いは、屋敷で待っている自分の仕事へと向っていきます・・・哀しくなるくらい余韻のある結末でした。

著者カズオ・イシグロは、1954年、長崎生まれ、5才で渡英し、すべての学校教育をイギリスで受け、ほとんど日本語を解さない、と訳者あとがきにありました。
「日の名残り」は、1989年刊行、1993年にアンソニー・ホプキンス主演で映画化されています。

文句なし★★★★★作品。深く共感しました。
by cuckoo2006 | 2007-03-28 17:42 | 本(外国のもの) | Trackback | Comments(0)

「ゴリオ爺さん」上・下 バルザック〔著〕

d0074962_119921.jpg『奢侈と虚栄、情欲とエゴイズムが錯綜するパリ社交界に暮す愛娘二人に全財産を注ぎ込んで、貧乏下宿の屋根裏部屋で窮死するゴリオ爺さん。その孤独な死を看取ったラスティニャックは、出世欲に駆られて、社交界に足を踏み入れたばかりの青年だった。破滅に向う激情を克明に追った本書は、作家の野心とエネルギーが頂点に達した時期に成り、小説群“人間喜劇”の要となる作品である。』



「ゴリオ爺さん」は四つの章から成っています。一章目は「下宿屋」、ヴォケェ夫人の経営するパリの安下宿屋の情景が丹念に描写されます。一癖も二癖もありそうな老若男女七名の下宿人達、この章は面白く読みました。バルザック、これは歯が立ちそうです。

二章目から物語は下宿人の一人、貧乏学生ラスティニヤックの目を通して描かれます。野心を抱き社交界へ挑んで行くラスティニヤック。19世紀パリの社交界の恋愛の主流は、富裕な夫を持つ人妻と年若き青年達だったようです。青年は、恋の駆け引き、そして人生の駆け引きを学んでいきます。ここからの展開は、私にはもう退屈の一言、辟易しました。社会を人間を一つずつ知っていく青年の目に感情移入できればもう少し面白く読めたかもしれません。

この章と次の章をノロノロうんざり読んだ後、最終章の「父親の死」でエンジン全開になりました。下巻の半分くらいからようやく面白くなる本は、ちょっとばかりの快感。ここまで我慢の末、登り詰めた者だけが味わえる絶景かな!というわけです。
娘達にも見捨てられ、ゴリオ爺さんが死の床で本心を語り始めます。「娘達は私のことなど一度も愛したことなどないーとっくに分かっていたけれども気付かないふりをしていた、信じたくなかったー」終盤一気に畳み掛けるくだりは胸に迫りました。

何と言ってもバルザックの心理描写が興味深かった。善良で真面目で何もかも我慢してしまうゴリオ爺さんが、周りの者や娘に軽んじられていく様子などは胸につまされるものがありました。そして、ゴリオ爺さんの傍らで青年ラスティニヤックは、人生の処世術を学んで行きます。随所に見られる辛辣な人間描写が真実を突いていました。

カビ臭くて読みにくかったけれども、やはり上質な小説に間違いないと思います。
by cuckoo2006 | 2006-12-12 10:31 | 本(外国のもの) | Trackback | Comments(2)

「父親たちの星条旗」 ジェームズ・ブラッドリー/ロン・パワーズ〔著〕

d0074962_15321997.jpg 朝日新聞の夕刊に月一度、沢木耕太郎が映画評を連載しています。
その「銀の森へ」で今月取り上げられたのが、「父親たちの星条旗」。

第二次世界大戦中、日米がもっとも激しい死闘をくりひろげた島、硫黄島。この山頂に掲揚された一枚の星条旗の写真、これがある種の「ヤラセ」であり、偶然にもその星条旗を揚げる役割を担ってしまった若い兵士たちの苦悩の物語、というあらすじを読みこれは見逃せない作品だと思いました。

映画は三つの時代を激しく行き来しながら進み、演じるのは日本の観客に馴染みのない俳優達と記事にあり、これは先に原作を読んでおこうと決めました。外人さんは勿論、最近ではジャニーズもみんな同じ顔に見える私です。

ところで、また老父の話で恐縮ですが、「お父さんは、捕虜になったから生きて帰って来られた。兵隊に取られていたら上等兵にイビリ殺されていたよ。何しろ坊ちゃん育ちの軟派だから」などという話を聞いたことがあります。
それはともかくとして、この「父親たちの星条旗」は、命を懸けた海兵隊員の熱い友情が描かれています。友情と国家への忠誠、上の者と下の者は、共に生きて帰ろうと助け合います。
「生きるとか、死ぬとか、戦うとかの問題ではなかった。それは、友達を助けるかどうかの問題だった」ある兵士の証言です。

そして、物語の核心である星条旗を掲げた六人の若者達、その生い立ちや入隊に至る経緯が説明され、一人一人の横顔を浮かび上がらせていきます。
六人が明るく健康で、まだ幼さも残る青年だったこと、家族と友人を愛し、なにより「祖国のために」と行動する若者達だったこと、それが悲しく伝わって来ます。彼らの幼年期からの写真も掲載され、このどこにでもいるような若者達の家族写真に見入ってしまいました。
そして志願や徴兵により入隊する際、泥まみれになる陸軍歩兵よりも海軍、そして危険のより少ない衛生官を薦める親など実感があり大いに共感します。

ある種の「ヤラセ」と言われた星条旗を揚げる写真が取られる経緯も良く分かりました。そして生き残った者達は世の中の大きな流れに翻弄され傷ついていきます。
負傷しながらも生還した三人それぞれの長く苦しい人生、一人は酒に溺れ、一人は有名になったことを利用しようとし、そしてもう一人は一切の記憶に重く蓋をします。

これは、その三人のうちですべての取材を拒否することを選んだ男性の息子によって、父親の死後、書かれた物語です。遂に立ち直ることの出来なかった、最後まで花を咲かすことのなかった残りの二人に対比して、父親である衛生下士官の偉大さが引き立っています。もちろん類まれな強さ優しさを持った人格者だったのでしょう。

極限の体験をした人間が、心を保って生きていくことの難しさを深く感じました。いじめにより自尊心や命まで奪われる思いをした子供達が生きていくのも同じように困難なことに思えます。
星条旗を揚げた若者のうち、唯一幸福な人生を送ったと言われた著者の父親も辛い生涯であったと感じました。

「銀の森へ」の最後に、沢木耕太郎は、こう書きますー
映画の表のメッセージは、「祖国のために戦った若者たちは戦友のために死んだ」もうひとつのメッセージは、「戦争を美しく語る者を信用するな、彼らは決まって戦場にいなかった者なのだから」ー

来月には、日本側からの戦いを描いた「硫黄島からの手紙」が上映されるそうです。本書にも度々登場する栗林中将、硫黄島における日本軍の奇襲を指揮した総司令官を松平健が演じるそうです。
その前にまず「父親たちの星条旗」、兵士達のキャラクターを頭に叩き込んだので、やっと安心して映画を見に行けます。
by cuckoo2006 | 2006-11-26 18:54 | 本(外国のもの) | Trackback | Comments(0)