小説、映画、絵手紙、都々逸
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<   2008年 03月 ( 4 )   > この月の画像一覧

「潜水服は蝶の夢を見る」 監督ジュリアン・シュナーベル

d0074962_803675.jpg

見どころ
順風満帆な人生から一転、身体の自由を失った男が、唯一動く左目の瞬きだけで自伝を書き上げた奇跡の実話を映画化。「ミュンヘン」のM・アマルリックが難役の主人公を熱演。
ストーリー
雑誌編集者のジャン=ドーは脳梗塞に倒れ、全身が麻痺して動けなくなる、閉じ込め症候群に陥ってしまう。絶望状態の中でも周りの人々に支えられた彼は、唯一動く左目を使って、自分の半生をつづり始めていく。(Movie Walkerより)


ファッション誌「ELLE」の編集長ジャン=ドーが病院のベッドの上で意識を回復したところから映画は始まります。霧の中のような視界と、途切れ途切れに聞こえる医師や看護士の声に、全身が麻痺した主人公の目線でカメラは動いていきます。

私は、単純明快なハリウッド映画が一番好みで、ヨーロッパ映画の持って回ったような雰囲気とどうも肌が合いません。だけど、この作品はフランス映画で良かった。これがアメリカ映画だったら、、熱い感動が、もっと前面に出てきたことでしょう。こちらは、ユーモアとウイットが全編に織り交ぜられ、肩の力のいい抜け具合に大人の余裕を感じました。

作品には、倒れる前の主人公の姿も挟み込まれます。軽口を叩き合いながら老父の髭を剃ってやる。別れた妻と暮らす子供達に会いに行く。そして幻想が交差する現在の恋人との時間。華やかな世界を泳ぐ、昨日までのジャン=ドーの姿が描かれます。

やがて、彼は、言語療養士はじめ治療チームの努力により、瞬きで自分の意思を表現できるようになる。「死にたい」と瞬きで訴えていたジャン=ドーは、構想中だった自伝の執筆に取り掛かることを決意します。

病室のベッドに備え付けた電話に、老父が電話をかけてくるシーン、それから、元妻がジャン=ドーの言葉を彼の恋人に通訳するシーンには、それぞれのほとばしる感情に、胸が締め付けられました。

「人が身体の自由を奪われても決して奪われないものが二つある。それは想像力と思い出という記憶だ」、これは忘れずにいようと思う主人公の言葉です。活力が湧いたり、妙に悲しくなったり、どの方向かに拘らず、心の振り子が大きく動くほど、良い映画だと私は思います。この作品も間違いなく今年のベスト3入り。心を揺さぶられました。


@T・ジョイ大泉
by cuckoo2006 | 2008-03-27 23:18 | 洋画 | Trackback | Comments(1)

「影踏み」 横山秀夫〔著〕

c0155544_17143582.jpg内容(「BOOK」データベースより)『窃盗罪での服役を終え出所した真壁修一(34)が真っ先に足を向けたのは警察署だった。二年前、自らが捕まった事件の謎を解くために。あの日忍び込んだ家の女は夫を焼き殺そうとしていた―。生きている人間を焼き殺す。それは真壁の中で双子の弟・啓二の命を奪った事件と重なった。十五年前、空き巣を重ねた啓二を道連れに母が自宅に火を放った。法曹界を目指していた真壁の人生は…。一人の女性をめぐり業火に消えた双子の弟。残された兄。三つの魂が絡み合う哀切のハード・サスペンス。』

読んでる最中、泥棒に入られるのが恐ろしくなりました。
深夜、寝静まった民家を狙い現金を盗み出す「ノビ」と呼ばれる忍び込みのプロが、主人公。音も立てずにドライバーで窓ガラスを割り、イビキや寝息が規則正しいことを確認しながら泥棒の五感は現金のある場所へ近づいていく。「ノビ」の仕事ぶりにゾッとする臨場感があります。似たような外観の家が並ぶ中、職業的泥棒がこの一角に立てば、10人中10人が迷うことなく狙うのはこの家、という解説まであります。生垣の種類に高さ、死角の有無、最新モデル住宅はローンに汲々としているから避ける、など詳しい描写がコワい。

また、ナカヌキ、バンカハズシ、ハコシ、ドウカツなどスリ用語の解説もあり、浅田次郎の
天切り松闇がたり」」を思い出しました。ちなみに、ナカヌキは財布の中身だけ抜くこと、バンカハズシは鞄の金具を外すこと、後の二つは、電車と映画館専門のスリのこと。

そして、何と言っても、この「ノビ」の主人公真壁が格好良かった。出てくる刑事、判事、裁判の執行官と言った面々が、これでもかと品性下劣に描かれるので、盗人側の方が人間的に思えるほど。影ある泥棒達の渋い味が、引き立ちます。真壁の死んだ双子の弟が、常に兄と一緒にいる、という設定も良かった。死んだ19歳のままの弟とクールな兄との会話が、物語に温かみを出します。

最後に、この弟が、兄弟の不幸な家庭の真相を兄に打ち明け、タイトルの意味が明かされます。非情さの中にある温もりと言いましょうか。著者の「クライマーズハイ」、「半落ち」に共通するものを感じました。
by cuckoo2006 | 2008-03-20 12:23 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(2)

「君のためなら千回でも」 監督マーク・フォースター

c0155544_1031786.jpg見どころ
「ネバーランド」のマーク・フォースター監督が、新人作家のベストセラー作品を映画化。亡命して作家となったアフガン人青年が、少年時代のある罪と対峙する姿を感動的につづる。
ストーリー
1970年代のアフガニスタン。裕福な家の少年アミールは、召使の息子ハッサンと兄弟のように育てられてきた。ある日、凧揚げトーナメントに参加した2人は、そこで思いがけない出来事に見舞われ仲違いしてしまう。(Movie Walkerより)



これは、劇場予告を見て、絶対観ようと決めました。
90秒の予告編で涙が出かかりました。

1970年代初め、アフガニスタンには、まだ平和な時間が流れていた。アミールは富裕な父を持ち、ハッサンはその召使の息子。幼い頃からいつも一緒の二人は親友同士だった。出生時に母を失ったアミールは内気で物語を書くのが得意。厳格な父は、現実から逃避しがちな息子に不甲斐なさばかりを感じている。一方、一つ年下のハッサンは現実対応能力に優れ、いつでもアミールを優しく忠実に支えていた。

アミール12歳の冬、恒例の凧揚げ合戦に二人の上げた凧が優勝する。だが、凧を追って行ったハッサンは街の不良に捕まってしまう。ハッサンを探しに来たアミールは暴行を止める勇気がなくその場から逃げ去る。傷つけられたハッサンも友達を見捨てたアミールも深く心に傷跡を残した・・・

平和な時代のアフガンの豊かで美しいこと。雪を頂いた山並みに、民族衣装の人々が溢れる往来に市場、街に活力が漲ります。また、アミールの原体験のように何度も回想される凧揚げシーン、風に凧糸が唸りを上げる音が胸に染みます。この少年時代が映画の肝でした。ここにスポットを当てた予告編が良かったのは当然でしょう。

けれども、ソ連軍の侵攻後、アメリカへ亡命したアミールが大人になってからは散漫な印象でした。父との確執と和解、自らの恋愛に結婚と、広がり過ぎた展開に物語の核がぼやけてしまいます。一本の電話に衝き動かされるアミールの行動力も、彼本来の気質から懸け離れるほど強引で現実感に乏しい。少年時代に卑劣な手段でハッサンを遠ざけたアミールのキャラクターに共感できないところもありました。原作は、アミールの30年間が描かれた物語なので、2時間に詰め込むのは苦しかったかもしれません。

原題は「The Kite Runner」、アフガニスタン出身のカーレド・ホッセイニのデビュー作。
平和なアフガニスタンの街並みとハッサン役の少年が深く心に残りました。


@恵比寿ガーデン・シネマ
by cuckoo2006 | 2008-03-08 10:39 | 洋画 | Trackback | Comments(0)

「風に舞い上がるビニールシート」 森絵都〔著〕

c0155544_9535419.jpg(内容(「MARC」データベースより)
『国連で難民事業に携わる里佳は、上司で元夫のエドがアフガンで死んだという知らせを受ける。そして、エドがアフガンで助けた少女のことを伝え聞き-。大切な何かのために懸命に生きる人たちの、6つの物語。』




短編集独特の不完全燃焼ぎみな読後感がありませんでした。
6つの物語がそれぞれに独自の雰囲気を放ちます。

最初の「器をさがして」は、カリスマパティシエに翻弄される秘書役がヒロイン、林真理子の小説を思わせるような女の嫌らしさが描かれます。一転して、次の「犬の散歩」は、里親を待つ犬達のいじらしさに思わず胸が熱くなり、「鐘の音」では、仏像の修復作業が題材となる。一作ごとにガラリとテイストを変え、それぞれ完成度の高い味が、お互いを引き立て合う。最後まで美味しく味わえました。

私は、特に、お終いから2番目の「ジェネレーションX」が好きでした。得意先に謝罪に行く車を運転する主人公は、助手席の若手が恐縮しながらも、しきりに携帯電話をかけることを苦々しく思う。ハンドルを握りながら、聞くともなく聞こえてくる会話に、明日が彼と仲間達にとって特別な日であることがわかってくる・・・携帯電話の話し手の声だけで、彼の仲間達一人一人の顔を浮かび上がらせていく腕が冴える。最後のオチもグッと来る。直球勝負のいい話でした。

そして、表題の「風に舞い上がるビニールシート」は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)で働く国際結婚のカップルが主人公となり、舞台はアフガンへ広がっていきます。描写されるタイトルの意味が切なく悲しい。終わるのがもったいなくてゆっくりページを捲った久しぶりの小説でした。瑞々しくて巧い。これから若い作家をどんどん読んでみようと思わせてくれた一冊でした。                          
2006年上半期直木賞受賞作品
by cuckoo2006 | 2008-03-01 12:51 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(2)