小説、映画、絵手紙、都々逸
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「ザ・ファイター」 監督デビット・O・ラッセル

a0163466_1450829.jpgストーリー
「スリー・キングス」のデビッド・O・ラッセル監督が、マーク・ウォールバーグとクリスチャン・ベールを主演に迎え、名ボクサー、ミッキー・ウォードと彼の異父兄ディッキー・エクランドの絆を描いた実録ドラマ。1980年代のマサチューセッツ州ローウェル。米ボクシング界のスター、シュガー・レイ・レナードと拳を交わしたことのあるディッキー(ベール)は街の英雄だったが、戦いに敗れたことから麻薬に手を染め、投獄される。そんな兄の陰でミッキー(ウォールバーグ)は早くからアマチュアボクサーとして実績を積み、頭角を現すが……。クリスチャン・ベールとメリッサ・レオが第83回米アカデミー賞で助演男優賞、助演女優賞を受賞した。
キャスト
マーク・ウォールバーグ、クリスチャン・ベール、エイミー・アダムス、メリッサ・レオ(eiga.comより)


 イキのいい、ノリのいい映画。実話を基にしたストーリーです。エンドロールで、モデルとなった実在のボクサー兄弟・ディッキーとミッキーが登場しますが、特に兄のディッキーは喋り方も風体もクリスチャン・ベールの演じた役そのまま。ベールと同じくオスカー助演賞を受賞したモンスターマザー役のメリッサ・レオも、マサチューセッツ州ローウェルの埃臭い路地も酒場もボクシングジムも、リアルな雰囲気がひしひし伝わってくる映像です。
 
 ディッキーは、かつて才能あるボクサーとして街の英雄だったが、今ではクスリに溺れる怠惰な毎日。そのディッキーに異父兄弟のミッキーは、ボクシングのすべてを教わってきた。父親の気質の違いからか、ミッキーは兄と正反対の誠実で努力家な青年。しかし、専属トレーナーの兄とマネージャーを務める母親アリスに金のため不利な試合を強いられ、ボクサーとして不遇の日々を送っていた。そんな時、ミッキーは酒場で働くシャリーンと恋に落ち、ボクサーとして成功するために家族と距離を置くことを決意する・・・・

 「あなたのためよッ」、と息子を食い物にする母親、そしてゴロゴロいる(働いているようには見えない)異父姉妹達は、この映画の強烈な存在です。そんな母アリスも女としての魅力はありそうで、二人の息子達にもどうやら愛されている様子。癪に障るが現実感があります。一方シャリーンは、そんな一族にも全く負けてない。ミッキーをそそのかすな、とシャリーンの家に乗り込んで来た母と姉達にパンチをお見舞いする場面には胸がスーッとしました。

 新チームのもと、着々と勝利を収めていくミッキーは、遂に世界タイトルマッチの挑戦権を手にします。ディッキーは当然のようにまた弟のセコンドを買って出るのですが・・・・

 それにしても「勝利」の力って凄いものです。一瞬にしてすべてのマイナスをプラスに転じ、自分は勿論、周りの人間の人生も塗り変える。いがみ合う人達の心さえ一つにしてしまう。勝負師にとって、「勝つ」ということはこういうことなのだと実感します。駅までの道、気がつくと拳がボクシングのグーになってました。ゴールデンウィーク一押し作品です!


@池袋東急


★次回は、宮尾登美子の「きのね」です。
by cuckoo2006 | 2011-04-29 13:52 | 洋画 | Trackback | Comments(0)

「月と蟹」 道尾秀介[著]

月と蟹」 
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内容(「BOOK」データベースより)
「ヤドカミ様に、お願いしてみようか」「叶えてくれると思うで。何でも」やり場のない心を抱えた子供たちが始めた、ヤドカリを神様に見立てるささやかな儀式。やがてねじれた祈りは大人たちに、そして少年たち自身に、不穏なハサミを振り上げる―やさしくも哀しい祈りが胸を衝く、俊英の最新長篇小説。



 これは自信を持ってお薦めしたい本!
小学5年生の慎一は、2年前に東京から鎌倉の祖父の家へ越してきました。1年前に父が病死し、今は、事故で足が不自由になった祖父と母の三人暮らし。やはり関西から転校して来た春也とはクラスに馴染めない同士、気が合っていました。

 夏休み前の放課後、慎一と春也が岩場の陰に作った秘密の場所や、慎一の祖父に連れられ鶴岡八幡宮へ舞いを見に行く二人の寄り道の冒険など、生き生きと描かれます。風の匂いや草いきれ、そして子供達の汗や体温を感じるような描写に、やっぱり芥川賞作品(芥川賞ではなく直木賞でした)は上手いなあ、と納得します。けれどもここまでは、見事なお手並みを感心すると同時に、上質な作品独特の退屈さ、も感じてました。それに、生物への虐待、また子供への虐待を思わせるシーンもあり、あんまり愉快な話とは言えません。

 中盤から、クラスの太陽のような存在の少女・鳴海が二人の秘密の儀式の遊びに加わるようになります。この辺りから三人それぞれの心理描写に、ぐんぐん引き込まれていきます。慎一の祖父が起こした10年前の漁船の事故で、鳴海は母を亡くしていました。慎一と距離を置くクラスメートの中で、鳴海だけが彼と仲良く接しています。そんなある日、慎一は、自分の母親が鳴海の父親と密かに逢っているところを目撃してしまいます。そして、慎一の教室の机の中には、また彼を中傷する手紙が入れられていました・・・・

 後半からはもう、上手いなあ!と唸っている暇もなく、夢中で先へ先へとページを捲ります。前半までは予想される通りの筋立てでしたが、終盤は全くの予測不能。嬉しい予測不能です。鳴海が、「あの人、なんか恐くない?」と言うように最初は春也に“危うさ”を感じましたが、後半は慎一の方が“狂気”に駆られます。慎一のなかで幻想と現実が交差する最後の数十ページは、姿勢を変えるのも忘れて読み切りました。5年生の2学期、三人はそれぞれが、明るい方へ小さな一歩踏み出します。頭の中のスクリーンで、一本の映画を観たような小説でした。
by cuckoo2006 | 2011-04-20 22:06 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「神々と男たち」 監督:グザビエ・ボーボワ

神々と男たち」  a0163466_13532150.jpg
ストーリー
1996年のアルジェリアで、7人のフランス人修道士がイスラム原理主義者とみられる武装グループにより誘拐・殺害された実在の事件を題材にしたヒューマンドラマ。第63回カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリを獲得した。アルジェリア山間部にたたずむ僧院で、フランス人修道士たちは地元のイスラム教徒たちと宗派を越えた交流をしながら、平穏な毎日をおくっていた。しかし、アルジェリア軍と原理主義者による内戦が激化したことから、彼らの周囲にも暴力の影が忍び寄り始める。
キャスト
ランベール・ウィルソン、マイケル・ロンズデール、オリビエ・ラブルダン、フィリップ・ロダンバッシュ(eiga.comより)


 1996年にアルジェリアで実際に起きた事件に基づいた作品。やはり観に来て良かった。しーんと胸に残るものがありました。アルジェリアの山間の小さな村の修道院に、修道院長クリスチャンをはじめカトリック・シトー派に所属する修道士達は自給自足の生活をしています。修道士達はイスラム教徒である村人達と良好な関係を保ち、修道士の一人である医師リュックは、訪れるたくさんの村人を診察していました。質素だけれど暖かい食事、村人と共にする労働、見事な声量で歌われる讃美歌そして祈り、美しい自然の中、戒律に基づいて繰り返される彼等のシンプルな日常に、不思議な心地良さを感じました。

 しかし、アルジェリアの内戦は激しさを増し、イスラム過激派の市民への残虐行為はエスカレートしていきます。修道院にも襲撃の危機が迫りますが、クリスチャンは軍が修道院を守るという申し出を断ります。フランス大使館は修道士達に帰国を要請し、一方村人達は彼等に村に留まってほしいと懇願する。発つか留まるか、クリスチャンらは決断の時を迎えます。

 内面の動揺を抑え、静かにテーブルにつく修道士達。最初の話し合いでは、発つと残るが半々でした。クリスチャンは結論を保留し、自分ももう少し考えてみると語ります。それぞれが胸に思いを抱えながらいつもと同じように過ごす祈りの日常が、胸に沁みました。迷い恐れる修道士達が近しく感じられます。

 そして、彼等が出した結論は、全員が残るというもの。それぞれの残る理由をクリスチャンに告げます。「夕べ私は発とうと決めた。しかしそう決めた今の自分の心に平安はない。だから残る。」「私には待っている人がいない。だから残る」「ここが自分の居場所だから残る」淡々と話す言葉に息が詰まりました。

 チャイコフスキーの白鳥の湖が流れるなか、夕食の後、リュックが皆のグラスにとっておきのワインを注ぐ。これが最後の晩餐となります・・・。二人の修道士が生き残っているので彼等からの証言もあると思われ、修道士それぞれの人柄や小さなエピソードに現実感があります。エンタテイメント性はもちろん皆無の作品ですが、深く胸に迫りました。ここにこういう男達が生き、こういうことがあった事実が記録されて良かった。生きることに身が引き締まる思いで座席から立ち上がりました。


@銀座シネスイッチ


★次回は、芥川賞受賞作品、道尾秀介の「月と蟹」です。
(加筆訂正 芥川賞ではなく直木賞受賞でしたm(__)m)
by cuckoo2006 | 2011-04-07 17:30 | 洋画 | Trackback | Comments(0)