小説、映画、絵手紙、都々逸
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「ツリー・オブ・ライフ」 監督テレンス・マリック

a0163466_23514344.jpg「天国の日々」「シン・レッド・ライン」のテレンス・マリック監督が、ブラッド・ピット、ショーン・ペンを主演に描くファンタジードラマ。1950年代半ば、オブライエン夫妻は中央テキサスの田舎町で幸せな結婚生活を送っていた。しかし夫婦の長男ジャックは、信仰にあつく男が成功するためには「力」が必要だと説く厳格な父と、子どもたちに深い愛情を注ぐ優しい母との間で葛藤(かっとう)する日々を送っていた。やがて大人になって成功したジャックは、自分の人生や生き方の根源となった少年時代に思いをはせる……。製作も務めたピットが厳格な父親に扮し、成長したジャックをペンが演じる。第64回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した。
キャスト
ブラッド・ピット、ショーン・ペン、ジェシカ・チャステイン。(eiga.comより)


 
 この物語は、どうしてこんな大仰なことになってしまったのでしょうか?

 話の筋は普遍的なものです。ブラッド・ピット扮する父親は、成功するためには善人であってはならない、ひたすら強くあれ、と三人の息子達に非情なほど厳しく接します。が、期待通りにならない息子達に、また思い通りに行かない自分自身の人生に失望し、苛立ちを感じています。一番風当りを受けるのは長男で、その長男の怒り不安は、すぐ下の弟に向けられる。優しい次男は、長男の胸の内を幼いなりに理解し、兄の仕打ちに耐えているように見えます。三兄弟の母親(ジェシカ・チャステイン)は、信仰心厚く愛情深く、神話の世界に生きているように感じました。

 物語は、19歳になった次男の死の知らせを両親が受け取る場面から始まります。この弟の死がショーン・ペン演じる中年になった長男の心の苦しみに繋がっているように思えました。そして物語が動き出すとすぐに、スクリーンは原始の時代の宇宙や地球や海底の映像に変わります。これがもう延々と続いた。面食らわなかった観客はいないでしょう。

 宇宙の誕生、生命の神秘をこれでもかと言うほど見せられた後、画面は先ほどの家族へ戻ります。父親が子供達に喧嘩の仕方を教えたり、一緒に木を植えたり、水遊びしたり、美しい映像と音楽に、長男の記憶の引き出しが開くように場面は展開していく。画面は静けさに包まれています。でも次の瞬間に誰か叫び出すような予感のする静けさです。胸がざわざわしました。

 ラスト・シーンは、現在の長男とその妻、そして少年時代の三兄弟、若き日の両親、皆が皆、安堵の表情を浮かべ、神に導かれるかのように手を携えて歩みます。宇宙の映像に慣らされた後なので、もうどんなシーンにも違和感を感じません。この作品は監督自身の自伝的ストーリーで、彼の傷ついた魂を救済するために撮られたのでは、という気がしてきました。消化するのにまだまだ時間がかかりそうです。


@TOHOシネマズ西新井
by cuckoo2006 | 2011-08-28 00:19 | 洋画 | Trackback(14) | Comments(0)

「沼地の記憶」 トマス・クック[著]

a0163466_23352147.jpg教え子エディが悪名高き殺人犯の息子だと知ったとき、悲劇の種はまかれたのだ。若き高校教師だった私はエディとともに、問題の殺人を調査しはじめた。それが痛ましい悲劇をもたらすとは夢にも思わずに。名匠が送り出した犯罪文学の新たなる傑作。あまりに悲しく、読む者の心を震わせる。巻末にクックへのインタビューを収録。(文庫本裏表紙より)


 
 唸りました。トマス・クック、やっぱり巧い!

 老年になった元教師の語り手が、若き教師時代を振り返る形で物語は進みます。舞台は、人種と階級で地区が線引きされていた頃のアメリカ南部レークランド。裕福な名家の一人息子として育った彼は、父と同じように地元の公立高校で教師になる道を選ぶ。この町にいる限り特別な存在として敬われる彼は、自分のことを誰一人知らない外の世界へ出て行く勇気はなかったのでした。

 24歳の彼は、恵まれない環境にいる生徒達を少しでも向上させようと熱心に指導します。それは未熟で傲慢な手法だったのですが、彼に教育者としての自信を芽生えさせます。やがて更に彼は、特定の生徒の人生に影響を及ぼしたい、と切望するようになります・・・・・

 暗く静かなトーンで、過去と現在を行き来しながら、語り手は自らの胸の内を晒し、登場人物達の心の奥底を覗き込みます。いったい何が起こるのか、、、何が起きたのか、、、。誰が犯人なのだろう?ではなくて、何が起きるのだろう?という不吉な胸騒ぎのなか、物語はひたひたと進んでいきます。

 悲劇は、結果的にたった一つの不用意な言葉と沈黙から起きました。その悲劇の後、閉鎖的なコミュニティーで、人々がどのように年を取っていったかも明かされます。わたしは、語り手である教師を責める気持ちにはなれませんでした。ラスト3ページに最後の衝撃が待ち構えます。


★次回は、映画「ツリー・オブ・ライフ」です。
by cuckoo2006 | 2011-08-23 23:23 | 海外ミステリー | Trackback | Comments(0)

「コクリコ坂から」 監督宮崎吾朗

a0163466_18314194.jpgストーリー
「なかよし」(講談社刊)に連載された高橋千鶴・佐山哲郎による少女漫画をスタジオジブリが映画化。宮崎駿が企画・脚本、「ゲド戦記」の宮崎吾朗が同作以来5年ぶりに手がける監督第2作。1963年の横浜、港の見える丘にあるコクリコ荘に暮らす16歳の少女・海は毎朝、船乗りの父に教わった信号旗を海に向かって揚げていた。ある日、海は高校の文化部部室の建物、通称「カルチェラタン」の取り壊しに反対する学生たちの運動に巻き込まれ、そこで1学年上の新聞部の少年・俊と出会う。2人は徐々にひかれあっていくが……。海役に長編劇場アニメ声優初挑戦の長澤まさみ。俊役は「ゲド戦記」に続き2度目のジブリ作品参加となる「V6」の岡田准一。
キャスト
長澤まさみ、岡田准一、竹下景子、石田ゆり子、柊瑠美、風吹ジュン、内藤剛志、風間俊介、大森南朋、香川照之(eiga.comより)


 残念ながら、期待外れでした。どうしてこのお話ををアニメーションにする必要があるのかと思ってしまった。人間離れ、というか、バケモノというか、そういうキャラクターが1コも登場しない宮崎アニメを初めて観た気がします。“小人のアリエッティ”も“カオナシ”も“トトロ”も出てきません。人間しか出て来ないというと「おもひでぽろぽろ」を思い出しましたが、あれは過去の世界から小5の自分が現れるので、アニメに違和感がありませんでした。声の出演は今井美樹と柳葉敏郎で好きな作品です。
 
 
アニメと言えば私はやはり、脳や五感がジワ~ッと癒される、夢と現実の狭間を漂うような浮遊感を味わいたい。この映画のTVCMで頻繁に流れていた手嶌葵さんの歌のような雰囲気、です。さあ、その世界へと、映画館に向かったのですが、その世界は一向に見当らず脳ミソも気持良くなれぬままでした。

 それじゃあ、お話の筋はというと、『伝統ある学生寮取り壊しに反対する高校生の団結』と、『好きな人ともしや血の繋がった兄妹かもしれない、、、』という、いったいどこから発掘してきたのか、というもの。若い人達にとっては、こういうのって、逆に新鮮に映るのかなあ。ギモンです。そんなわけで今年の夏のスタジオジブリとの相性は×でした。


@TOHOシネマ西新井


★次回は、海外ミステリー、トマス・クックの「沼地の記憶」です
by cuckoo2006 | 2011-08-17 16:00 | 邦画 | Trackback | Comments(0)

「猫を抱いて象と泳ぐ」 小川洋子[著]

d0074962_14595261.jpg
「大きくなること、それは悲劇である」。この箴言を胸に十一歳の身体のまま成長を止めた少年は、からくり人形を操りチェスを指すリトル・アリョーヒンとなる。盤面の海に無限の可能性を見出す彼は、いつしか「盤下の詩人」として奇跡のような棋譜を生み出す。静謐にして美しい、小川ワールドの到達点を示す傑作。(文庫本裏表紙より)

 
 
 久々に読み終えるのが惜しくなる小説でした。「博士の愛した数式」しか読んだことがなかった小川洋子さんの並々ならぬ才能を感じました。
 
 読み進むうちにひょっとしてこれは本当にあった話なのかな、という気がしてきました。最終章のあとに、自動チェス人形と、それを操作していた、この物語の主人公であるリトル・アリョーヒンが確かにこの世に存在した証拠が示されます。それは、今も私営チェス博物館に展示されているチェスゲームを記録した棋譜でした。変色したその一枚の棋譜から、作者のイマジネーションは、リトル・アリョーヒンの美しく儚い人生を繰り広げてみせます。
 
 少年は、祖母と弟と出掛けるデパートで、一人屋上のいつもの場所で過ごします。そこには、小象のときにインドから運ばれ、大きくなり過ぎたため屋上から降りることができなくなったインディラの形見の足輪がありました。少年が、屋上で一生を過ごした象のインディラに思いを馳せるこの冒頭シーンに、小説の世界へスルリと吸い込まれていきます。
 
 続いて描かれる、少年とチェスの師匠・マスターの交流も実に暖かく優しいものです。住居用に整えられた回送バスの中で、学校帰りに少しずつ馴染んでいくチェスの世界。大きな窓の外には季節の移り変わりがあり、バスの中はマスター手作りのおやつの匂いが溢れる。マスターは美しい棋譜を描くチェス指しでした。「慌てるな、坊や」といつも語りかけるマスターに、少年はチェスのすべてを教わる。やがて、ここから少年は、伝説のチェスプレイヤー・リトル・アリョーヒンとなり、果てしないチェスの海へ泳ぎ出していきます、“猫を抱き、象とともに”・・・・・

 登場人物たちは、みな“閉ざされたところから出られない”状況にあります。閉じ込められ身動きができないからこそ、肉体と精神が研ぎ澄まされ、誰も手の届かない境地へ、リトル・アリョーヒンは到達できたのかも知れません。彼が掴んだ愛も崇高なものでした。とは言っても、これだけの才能がありながら、リトル・アリョーヒンの生涯はあまりに哀し過ぎました。
 
 俳優の山崎努氏が巻末の解説でこんなふうに書いてます。
『自分から望んだわけでもないのに、ふと気がついたらそうなっていた。でも誰もじたばたしなかった。中略「仕方ない事情」は受け入れたほうがいい。それも早目に。そのあとにお楽しみが待っているのだから、と仕方なくなってから七十数年を過ごした僕はあらためて思う。』
これには、しっくり来ました。そう、ここからどこへも行けないのだから、ここでうんと頑張り楽しむ。この本の感想として、そのままイタダイテしまいます!


★次回は、映画「コクリコ坂から」です。

by cuckoo2006 | 2011-08-06 14:50 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)