小説、映画、絵手紙、都々逸
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「ひそやかな花園」 角田光代[著]

a0163466_175726.jpg 内容紹介
幼い頃、毎年サマーキャンプで一緒に過ごしていた7人。
輝く夏の思い出は誰にとっても大切な記憶だった。
しかし、いつしか彼らは疑問を抱くようになる。
「あの集まりはいったい何だったのか?」
別々の人生を歩んでいた彼らに、突如突きつけられた衝撃の事実。
大人たちの〈秘密〉を知った彼らは、自分という森を彷徨い始める――。
 親と子、夫婦、家族でいることの意味を根源から問いかける、
角田光代の新たな代表作誕生。


 「対岸の彼女」、「八日目の蝉」に続いて3冊目の角田光代さん。寝床読書二晩で読了しました。 やっぱり読ませますねえ。

 沙有美は、子供の頃、毎年サマーキャンプで過ごした夏の数日間のことを繰り返し思い出して来た。自然の中、何組かの家族が集い、年の近い子供達がいた。それは彼女にとって完璧に幸せな時間として記憶されていた。しかし、ある年を境にその集まりはなくなり、想い出に繋がるものは何もない。母親もそんなところに行ったことはないと言う。沙有美もあの夏の日々が自分の空想の中のことのようにも思えてくるのだった・・・これが物語のプロローグです。

 続いて、沙有美の記憶の中の“小さな子供だった”人物が次々にキャンプの思い出を語ります。あの夏の日々が自分にとってどんなものだったのか、そして、突然集まりが中止されてから自分達家族に何が起こったのかを・・・・・

 子供達にとって、なぜサマーキャンプがそんなにも楽しかったのか、それは良く解りました。母親が幸せそうにはしゃいでいるだけで、小さな子供は天にも昇る心地なのですよね。母親達が不安から解放され、そこでだけ見せる華やいだ様子が、サマーキャンプを子供達の記憶の中で特別なものにしたのでしょう。そう考えると切ない。若かった父親達が抱え込んだ苦しさも想像できました。

 サマーキャンプのメンバー男女7人が、真実を受け止めたことにより、それぞれの方向へ歩み出します。 仲間に劣等感を抱いてきた沙有美が語るエピローグは、彼女の確かな成長を応援したかった。少々突飛な舞台設定でも、登場人物達は今を生きていて心情に共感できます。物語を無理なく動かしていく、相変わらず安定度抜群の角田さんでした。


★次回は、伊坂幸太郎の「死神の精度」です。
by cuckoo2006 | 2011-10-23 15:41 | 本(日本のもの) | Trackback | Comments(0)

「ゴーストライター」 監督ロマン・ポランスキー

a0163466_2281827.jpgストーリー:元英国首相アダム・ラングの自伝執筆を依頼されたゴーストライターが、ラングの滞在する孤島を訪問。取材をしながら原稿を書き進めていくが、次第にラングの過去に違和感を抱き始める。さらには前任者の不可解な死のナゾに行き当たり、独自に調査を進めていくが、やがて国家を揺るがす恐ろしい秘密に触れてしまう。「チャイナタウン」「戦場のピアニスト」のロマン・ポランスキー監督が描く本格サスペンスで、第60回ベルリン国際映画祭銀熊賞(最優秀監督賞)を受賞。ユアン・マクレガー、ピアース・ブロスナンらが共演。
キャスト: ユアン・マクレガー、ピアース・ブロスナン、キム・キャトラル、オリビア・ウィリアムズ、トム・ウィルキンソン、ティモシー・ハットン、ジョン・バーンサル、デビッド・リントール、ロバート・パフ、イーライ・ウォラック
(映画.comより)

 週刊文春の「シネマチャート」で、めったに出ないジャッジするほぼ5人全員が★5つつけた作品。これは観逃せぬと上映館へ出かけました。しかし、プロがこぞって絶賛というのは、かなりクオリティの高い作品なのですね。張り巡らされた伏線は一瞬だけ見せられ、テンポ良い展開にまどろっこしい説明は一切なし。飲み込みの悪いオバサンは苦戦しました。

 元イギリス首相の自伝執筆を依頼されたゴーストライター(劇中での名前なし)は、気乗りしないまま高額の報酬につられ、元首相が滞在する孤島へ出かける。ゴーストライターは、孤島の瀟洒な屋敷で、元首相と妻、女性秘書らと会い取材を始める。この自伝執筆の前任者は、首相補佐官を務めた人物だったが、執筆中に事故死している。ゴーストライターは、取材を進めるうち、元首相の話に小さな矛盾を感じ、また前任者の死に疑問を抱く。彼は孤島の中で密かに調査を始める。そんな中、イスラム過激派の拷問に加担した容疑で、元首相に捜査の手が伸びる。やがてゴーストライターは、前任者が書き残した自伝の中に残した驚くべきメッセージを読みとる・・・・・

 ネタバレアリのブログを見つけて何とか頭の中を整理できたのですが、まだ霞みは晴れません。前任者の元補佐官は、元首相の意思のもとに伝記にメッセージを残したのですよね。でも、それを公にすることは不可能なので、そのメッセージを誰に伝えようとしたのか。次のゴーストライターに、なのでしょうか。元首相にとっては、それは明かしたくない最大の秘密と思うのですが、それ以上に、組織と、ある人物に一矢報いたかった、という訳なのでしょうか、、、核心の部分に靄がかかったままです。

 ラストシーンの見せ方も最高の恰好良さです。でもこの時には私の頭の中は疑問符でもう満杯。筋に乗り遅れると一級品の雰囲気も楽しめないものですね。そんなわけでロマン・ポランスキー監督に歯が立たちませんでした。ザンネン。


@ヒューマントラストシネマ有楽町


★次回は、角田光代の「ひそやかな花園」です。.
by cuckoo2006 | 2011-10-19 00:37 | 洋画 | Trackback | Comments(0)

「最終目的地」 ピーター・キャメロン[著]

d0074962_13130183.jpg
内容(「BOOK」データベースより)
南米ウルグアイの人里離れた邸宅に暮らす、自殺した作家の妻、作家の愛人と小さな娘、作家の兄とその恋人である青年。ナチスの迫害を逃れてきた先代が、ドイツ風の屋敷をたてたこの場所で、人生を断念したかのように静かな暮らしが営まれていた。そこへ突然、作家の伝記を書こうというアメリカの大学院生がやってくる。思いがけない波紋がよびさます、封印した記憶、あきらめたはずの愛―。全篇にちりばめられたユーモアと陰翳に富む人物像、それぞれの人生を肯定する作者のまなざしが、深く暖かな読後感をもたらす。英国古典小説の味わいをもつ、アメリカの傑作小説。

 2年前の新聞の書評欄の切り抜きがひょっこり出てきて、予約待ちゼロで図書館から借りられました。2009年発刊です。

 やはり書評を切り抜いた(随分忘れていたが)だけのことはあって自分好みでした。ミステリー要素ナシでこれだけの長編をぐいぐい読ませるのは作者の筆の巧みさでしょう。登場人物の一人一人がクリアな輪郭で浮かび上がってきます。
 
 一作の小説を世に出した作家の伝記執筆の公認を得るため、アメリカの大学院生は三名の遺言執行者の説得のためウルグアイへ向かう。この伝記には彼の将来がかかっていた。彼を迎えた遺言執行者の三名とは、作家の妻と、愛人と、作家の兄。妻と、愛人と小さな娘は、同じ屋敷の別棟で暮し、作家の兄は、若いパートナーの男性と少し離れた住居にいる。大学院生には、ウルグアイ行きを彼に強く薦めた年上のガールフレンドがいる。

 これが物語を構成する登場人物です。作家の妻と愛人は、互いを認め合い不思議な均衡関係を保っています。また、作家の年老いた兄と若いパートナーも小さな摩擦を生じながらも優しく労りあっている。そこへ、愚かしいほどの純粋さ、正直さを持った大学院生が現れることにより、危ういバランスを保っていた彼等の関係が変化していきます。めったにない来客に心浮き立つ者、その反対に固く心を閉ざす者、三者三様の反応を見せます。

 たくさんの会話体の中に、穏やかで慎ましい人々の本音が顔を出します。妻と愛人の互いに対する辛辣な評価など、そりゃあ、そうだろう、と納得。そもそも、なんで妻と愛人が作家の死後も(死ぬ前だって)一緒にいるのか?その理由もやがては明らかになり、彼等の過去も語られていきます。大学院生の子供のような無防備さが、皆の口を自然に開かせてしまうのでしょう。

 伝記執筆へそれぞれの思惑がぶつかり合い、仕舞い込んでいた作家への思いも溢れ出します。そしてまた、彼等の運命も動き出す。私は、結構嫌な女だった「妻」に多く感情移入するところがありました。その彼女が大きく歩み出したことに心が晴れました。幾つかの恋愛関係が描かれますが、印象に残ったのは、「自分が自分でいられること」が人間関係のキーだという大学院生の言葉。これも我が意を得たりでした。

 この本は映画化され、一番好感が持てた作家の兄役がアンソニー・ホプキンス、これはイメージピッタリ。その恋人役は、真田広之だったそうでこちらはピンときません。その恋人の青年が、大学院生とガールフレンド(彼女もウルグアイに現れる)を空港へ送る際、二人から彼の期待していたような態度や言葉が示されず、失望して帰途につく心理描写など、覚えのある切なさが染みました。そう、誰もがどこか思い当たるようなたくさんの感情が掬いとられています。共感できました。

 それにしても、もし大学院生がウルグアイを訪れていなかったら、と考えるとゾッとしますね。彼の出現が、結果的にすべての人に良い結果をもたらした。そして、彼自身の最終目的地も変更されたのでした。


★次回は、映画「ゴーストライター」です。

by cuckoo2006 | 2011-10-05 15:28 | 本(外国のもの) | Trackback | Comments(0)